M&Aとは?目的・手法・メリット・流れを解説【図解でわかる】

M&A(エムアンドエー)とは、Merger(合併)and Acquisitions(買収)の略で、「会社あるいは経営権の取得」を意味します。今回は、M&Aの意味・種類・目的・メリット・基本的な流れ・税金・手数料など、全般的にわかりやすく解説します。

M&Aとは

目次
  1. M&Aとは?意味と定義
  2. M&Aの目的
  3. M&Aのメリット
  4. M&Aのデメリット
  5. M&Aの流れ(手順)
  6. M&Aの種類(スキーム)
  7. M&Aにかかる税金
  8. M&Aにかかる手数料
  9. M&Aの件数推移
  10. M&Aの歴史
  11. M&A成功事例

M&Aとは?意味と定義

M&A(エムアンドエー)はMerger And Acquisition(合併と買収)の略で、直訳すると「企業の合併と買収」となります。
一般的にM&Aという場合、「会社もしくは経営権の取得」を意味します。

M&Aの主な手法としては株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割があります。

M&Aの広義の意味として合併や買収だけでなく、提携(業務提携・資本提携)を含む場合があります。経営面での協力関係全般をM&Aとする場合です。

M&A・事業承継
M&Aスキーム(手法)の種類・特徴・メリット・税金を図で解説

M&Aのスキーム(手法)には多くの種類があります。目的にあわせた方法を選ぶことで、利益を最大化することができます。今回は各スキームごとの特徴・メリット・デメリット・かかる税金・成功事例を解説します。 目次M&am […]

M&Aの目的

買収(譲り受け)側のM&Aの目的

M&Aで事業成長にかかる時間を買うことができるため

買収側にとってM&Aの大きな目的は時間を買うことができることです。既存事業の規模の拡大や、新規事業を新しく創ることには膨大な時間がかかります。M&Aはその時間を買い、事業を拡大する時間を大幅に早めることできる有効な手法です。

M&Aによる相乗効果(シナジー効果)を得るため

M&Aによって自社の弱みを補い、強みを最大化するような相乗効果(シナジー効果)を目的とする場合です。自社だけでは不足している、新しいテクノロジーや人材、市場を持つ会社と一つになることで、スピーディーに弱みを補完することができます。

例えばレガシーな物流網を持つ運送会社がIT企業と一つになることで、これまでにない業務効率化や新しいITと物流をかけ合わせたサービスを始められる、そういった相乗効果(シナジー効果)を出すための成長戦略としてM&Aが選ばれています。

新規事業の開拓・成長戦略としてのM&A

新しいビジネスチャンスを素早く獲得することを目的とするM&Aです。現代の産業は目まぐるしいスピードで成長期→成熟期→衰退期のサイクルが回っています。従来は成長期→成熟期で得た利益を元に新規事業に投資を行っていました。

しかし、情報・通信革命は自身が高速に変化するだけでなく、全ての産業とDX(デジタルトランスフォーメーション)を起こし、産業のサイクルを高速化しました。その結果、産業は短命化して従来の投資サイクルで新たな事業を起こす頃には、先行した競合に大きな差を付けられている状態が起きています。新しい市場やビジネス環境で事業を育成する時間的猶予はありません。

そのため、自社が成長期から成熟期である間に新たな稼ぎ頭となる事業を起こす必要が出てきています。投資回収までの時間を短縮し、育成を待たずに新たなビジネスチャンスを得るにはM&Aは非常に合理的です。

事業規模の拡大(スケールメリット)のためのM&A

競争が激化する市場で勝ち残るために、事業を拡大してスケールメリットを得ることを目的としたM&Aです。情報通信革命の結果、世界のあらゆる情報が瞬時に検索できるようになりました。その結果、世界中から最も効率の良い商品・サービス・生産/販売システムを選べるようになりました。
これまで地域で遮断されていた障壁が薄くなり、企業は世界経済の中から選ばれる存在になる必要があります。そのために必要なのは資本(体力)と効率の良い経営(筋肉質)です。

情報通信革命による変化は全ての業界で起きていて、規模の拡大は既存事業の成長を待つだけでは追いつくことはできません。業界で1~3位となる規模の会社でないと世界経済では生き残ることが難しくなってきています。そのために、積極的なM&Aで地域を超えたスピーディーな成長戦略を展開する企業が増えています。

売却(譲渡)側のM&Aの目的

投資回収・現金化までの時間を短くするため

これまで事業に投資投資してきた資本を回収するには通常多くの時間が必要になります。とくにストック型のビジネスや設備、研究に投資している場合、長期計画で投資を回収していきます。M&Aでは未来に予想される収益も価値として算定することができるため、価値を認めてくれる相手とマッチングできれば、投資回収までの時間を大幅に短縮し、資本を得ることが可能になります。

事業承継・後継者探しのため

事業承継が注目される背景として、多くの中小企業では、経営者の後継者が見つからない問題が深刻化しています。日本の中小企業経営者の内、2025年までに平均引退年齢の70歳を超えるのは約245万人、そのうち約半数の127万人が後継者未定と見込まれています。[3]オーナーの親族に後継者が不在の場合や、後継者がいたとしても経営する意思や能力がない場合には、事業承継が有効な手段となります。

事業承継の選択肢やそれぞれのメリット・税制等について下記コラムでも詳しくまとめていますので、ご参照ください。

M&A・事業承継
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創業者利益確定のため

創業者の退職金などもM&Aによって得ることができます。買収側の企業と話し合って、双方が合意する金額を会社売却時に創業者に支払Aいます。引退後の生活や、新しい事業を起こすためにその資金を使う場合もあります。最近ではM&Aでの売却を前提に事業を起こし、ある程度の売却価値が出た段階で売りに出し、また新しい事業を起こす連続起業家もいます。

資源の集中・筋肉質経営のためのM&A

弱みとなる事業を売却し、利益率の高い部門に資源を集中するためのM&Aです。
日本経済はアベノミクスと言われる経済政策により2012年12月から始まった6年間の景気回復局面は2018年10月に終了し[4]、その後景気後退局面に入りました。さらに2020年4月には新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発令され、2020年4~6月の実質GDP(国内総生産)は年率27.8%減[5]となりました。
今後も人口減少、少子高齢化社会の到来により日本市場は更に縮小することが予想されます。競争に打ち勝ち、企業を存続するためには規模の拡大と企業体力の向上が必要です。利益が出にくい事業を売却し、自社の最も得意な事業(利益が出る事業)に資源を集中することにより筋肉質な経営を目指すことが重要です。その手段として株式譲渡、事業譲渡、業務提携・資本提携・会社分割等のM&Aが有効です。

救済型(企業再生型)M&A

経営不振に陥ってしまった企業を救済する目的で行われるM&Aのことをいいます。
日本では元々、事業承継や救済型M&Aが主流でした。経営不振の企業を救うことは「助け合い」という日本の道徳心に沿うものです。方法としては、合併や第三者割当増資の引受という形式が取られます。

M&Aのメリット

買収(譲り受け)側のメリット

買収側のメリットとしてこれらの事柄が考えられます。

  • 技術・ノウハウの取得
  • ブランド・信用・取引先の取得
  • 優秀な人材の確保
  • 多角的な事業展開
  • 新しい地域(エリア)進出
  • コスト削減

技術・ノウハウの取得

買収側にとって、技術・ノウハウの取得はM&Aの大きなメリットです。企業が新たな分野や市場を開拓する際には、その分野の技術やノウハウの習得が必要不可欠となります。競合より優れた技術やノウハウを獲得するためには、研究・教育に長い時間がかかります。M&Aであれば、短期間で高い技術力やノウハウや許認可、権利等の知的財産を自社内に得ることができます。

ブランド・信用・取引先の取得

新たな市場で信頼されるブランドを確立させるには長い時間がかかります。相互理解の元、すでにその業界で確固たる地位を得たブランドをM&Aによって取得することができれば、買収側にとって大きなメリットになります。
ブランドは単独で成立するものではなく、顧客・取引先との人脈・地域や業界内との関係性・店舗・物流網など有機的な繋がりで形作られています。円満な取引により、双方了解の上でそれらの有機的な繋がりも継続してM&Aを進めることができれば、シナジー効果によりブランドにとっても新たな価値を創出できる機会となるでしょう。

優秀な人材の確保

企業の成長にとって必要不可欠な優秀な人材を確保できることはM&Aの大きなメリットの一つです。日本は人口減少の影響を受け、企業の主な働き手となる生産年齢人口(15歳から64歳)が大幅に減少しています。1995年には8,726万人だったものが、2015年に7,728万人まで減少しました。更に2040年には約6,000万人まで減少すると推計されています。[6]

優秀な人材の確保は今後もむずかしくなっていくことが予測されます。新卒採用の難易度も上がり、もし採用できたとしても教育と育成には長い時間が掛かります。中途採用は即戦力となり得ますが、組織の中で活躍ができるかは未知数です。そういった局面でM&Aでの人材確保は、組織として成果を出しているチーム・人材をそのまま自社内に迎えることのできる合理的な手段です。

また、通常であれば確保が困難な海外人材も、企業体そのものを統合することで、迎え入れることができます。その場合、優秀な人材がM&A後に社内に残ってもらえるか、事前にキーマンに条件面等で合意を得た上で進めるのが有効でしょう。

多角的な事業展開

M&Aによる新たな事業の取得は、既存のメイン分野以外も攻めることのできる、多角的な事業展開を可能にします。企業が生き残るためには既存分野(コア・コンピタンス)を更にその周辺分野や新規市場で活かせるような、シナジー効果を生むM&Aが重要になります。事業を単に取得するだけでなく、その相乗効果(シナジー効果)によって既存事業と新たに取得した事業の双方の売上にプラスの影響が期待できます。

新しい地域(エリア)進出

新しい地域への進出でもM&Aはすでにそこで活躍している企業の成果を見て適切な企業を選ぶことで、スムーズ且つスピーディーな地方展開が考えられます。従来、新たに地方に進出しようとすれば、競合調査、マーケット調査、地域の特性、慣習の把握等、多大なコストと時間がかかります。M&Aはそういった地域基盤を持つ企業を傘下に持つことで、より確実な地方展開が可能となります。過去の実績に基づいて投資できるため、リスクを抑えながら地方に進出できるメリットが出てきます。

コスト削減

規模の拡大が達成できればコストの削減が期待できるのもM&Aのメリットです。同じ業界でシェアを拡大できれば、仕入れ・運用・物流・流通など様々な面でスケールメリットが発生します。また、例えば、ITに弱い企業がITに強い会社と一つになることができれば、経営や社内業務を効率化することができ、人件費の削減なども期待できます。

売却(譲渡)側のメリット

売却側のメリットとしてこれらの事柄が考えられます。

  • 後継者不在問題の解決
  • 従業員の雇用を守れる
  • 経営者の個人保証を解除できる
  • 資金調達・バイアウト・創業者利益の確保

後継者不在問題の解決

多くの中小企業経営者にとって、後継者不足は深刻な問題です。M&Aは経営者が後継者問題を速やかに解決できる有効な手段です。一般的に中小企業の経営者が後継者を選ぶにあたり、まずは親族内もしくは自社の役員や従業員の中から選抜しようとします。しかし、当事者が経営を継ぐ気が無い場合や経営の能力が無い場合も多くあります。その場合、M&Aで外部の第三者に経営を引き継ぐことができれば、廃業を避け、自社を生き残らせることができます。費用面でも廃業にかかるお金を削減して、売却益を獲得できます。

従業員の雇用を守れる

M&Aは事業の売買による利益だけでなく、従業員の雇用を守れるというメリットがあります。経営者にとって従業員の雇用を守るのは重要な役割です。とくに地方では就職先も少なく、廃業後に新たな職場を斡旋するのも難しいケースが多くあります。M&Aで大きな資本の傘下に入ることができれば、従業員だけでなく、その家族も安心して生活することができます。それぞれの従業員はお客様や、取引先、販売先と深い関係性を作っている場合も多くあります。その面でも従業員の雇用を守ることはその先の家族や取引先など、地域経済を守ることにも繋がります。

経営者の個人保証を解除できる

経営者がM&Aや事業承継に乗り出せない要因として、経営者自身が会社の債務の連帯保証人となっている場合があります。M&A・事業承継では「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」「財務基盤の強化」「財務状況の正確な把握、情報開示等による経営の透明性確保」など一定の要件を満たすことで、経営者の個人保証を解除できる場合があります。[7]

資金調達・バイアウト・創業者利益の確保

M&Aは経営不振の場合のみ行われるものではなく、成長している事業を資金化するために行われる場合もあります。本来やりたかった事業や主力事業に注力する目的で、利益が出ている事業であっても売却する場合も多く見受けられます。また、創業者はその功労に応じて、退職金を売却額に含めることも認められています。自社株を第三者へ売却(バイアウト)することで、その資金を元にやりたい事業に注力する、もしくはアーリーリタイアするなど様々なメリットがあります。

M&A・事業承継
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M&Aのデメリット

買収(譲り受け)側のデメリット

買収側のデメリットとしてこれらの事柄が考えられます。

  • 予想していた収益が上がらない
  • 想定していた相乗効果が出ない
  • 優秀な人材の流出
  • 統合後の組織がうまくいかない

予定していた利益が上がらない

M&Aは規模の拡大や新しい市場への参加を通して利益の拡大を目指します。それが期待通りの結果となるとは限りません。M&Aでは財務諸表だけでは表現できないのれん(無形財産)に対しても対価を支払っています。のれんはブランド力や人材の力、顧客との関係性、知的財産等の目に見えない企業の無形財産を、将来にわたって利益を稼ぐ力(超過収益力)として評価したものです。この見込みに差分が生じると、M&A前に期待した収益を上げられないリスク(のれんの減損リスク)があります。

想定していた相乗効果が出ない

M&Aによって得られると期待していた相乗効果が得られないパターンです。元々業界や文化が違う組織が一つになることによって生まれる軋轢等によって想定される相乗効果が得られないことがあります。複数のブランドが一つになる場合、それぞれの立場を尊重しすぎて合理的な統合が進まないパターンや、レガシーな企業とIT化された企業が一つになったが、どちらかの文化やシステムに付いていけない場合など、想定していた相乗効果が発揮できないこともあるでしょう。

優秀な人材の流出

M&Aの目的のひとつには優秀な人材の確保があり、もしその人材が流出してしまえば、買収側の企業は想定していた価値が得られない可能性があります。人材流出の要因としては評価・報酬制度の変更や企業文化の変化、やりたいことがやれなくなった、将来が見通せなくなった等の理由が挙げられます。優秀な人材はその企業の技術・ノウハウ・取引先からの信頼等、多くの目に見えない資産を持っています。買収後も活躍してもらえるよう、M&A成約前にそういった人材が残る体制づくりができるか確認し、重要な人物には売却企業の経営者も交えて残ってもらえるか話し合っておくと良いでしょう。

統合後の組織がうまくいかない

社風や、従業員の待遇が違う企業が統合することで、統合後の組織がうまくいかないことがあります。     以下は統合の際に検討すべき事項です。

  • 経営理念・社風・企業文化
  • ブランド
  • 人材・人事制度
  • 業務プロセス・マニュアル
  • IT・システム
  • 店舗や事務所など物理的スペース
  • 財務会計

これらをM&Aの成約前にできるかぎり統合後の姿を描き、経営者同士で合意した後に、関係者に対して適切に説明することでこういった統合後のトラブルを未然に防ぎましょう。

売却(譲渡)側のデメリット

売却側のデメリットは主に以下のものが挙げられます。

  • 売却先が見つからない
  • 従業員の雇用条件が悪化する
  • 顧客や取引先との関係性が悪化する
  • 企業文化の不一致

希望条件の売却先が見つからない

M&Aが実現するためには、売却側は買収してくれる相手企業を見つける必要があります。買収側は財務体質やのれんの価値、法務リスクなどを見ていきます。PL・BS・CFの財務三表や決算書を元に価値算定が行われ、双方でその価格に納得することが必要になります。妥当な売却先を見つけるために、様々な相談先やサービスがあります。身近には税理士や公認会計士の士業専門家、地方銀行・信用金庫などの金融機関があります。公的なM&Aの相談機関として全国にある事業引継ぎ支援センターでは無料で相談が受けられます。
最近では、全国から幅広く買収企業を見つけることのできるM&Aプラットフォームを利用することで、効率的且つ手数料も抑えて売却先を探すこともできます。

従業員の雇用条件が悪化する

統合後に従業員の雇用条件が悪化してしまう場合があります。売却側に在籍していた優秀な人材が抜けてしまえば、取引先や顧客との関係悪化、技術・ノウハウの喪失が起きる可能性があります。そうなれば、買収側の企業も元々想定していた業績に影響が出る可能性があります。そうならないよう、予め従業員の雇用条件についても売却・買収側双方で相談し、とくに組織の中心となる従業員に対してはその条件で大丈夫か確認しておくことも必要となるでしょう。

顧客や取引先との関係性が悪化する

M&Aによって、経営者の交代、担当者の変更、契約条件の変更などが起きた場合、取引先や関係企業からの反発や、優良顧客が離れてしまう事態も考えられます。このような事態とならないよう、売却側の経営者には当面は取引先の間にたって関係性を構築するための橋渡し役になってもらう等、取引先にも配慮があると良いでしょう。取引先との友好的な関係性を保つことは企業価値を守るために重要なことなので、売却・買収側双方が一緒になってその関係性を継続できるよう取引が推奨されます。

企業文化の不一致(ミスマッチ)

企業は、それぞれに独自の文化や慣習があります。M&Aによる統合後にこのミスマッチが大きくなると、売却側・買収側の社員の人間関係やマネジメントに支障が出てきます。実務、社内手続き、人事、社内システムの統廃合などの負担が増加する要因となり得ます。双方の文化にどのような違いがあるか、それが許容できる範囲なのか事前に双方で理解しておくことでこのようなリスクを避けてM&Aを進めましょう。

[3] 中小M&Aガイドライン(経済産業省)
[4] 景気基準日付(内閣府経済社会総合研究所)
[5] 2020年4~6月期四半期別GDP速報 (内閣府経済社会総合研究所 国民経済計算部)
[6] 日本の将来推計人口(平成29年推計)報告書 (国立社会保障・人口問題研究所)
[7] 経営者保証ガイドライン(中小企業庁) 

M&A・事業承継
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M&Aの流れ(手順)

M&の流れ

M&Aの手順は一般的に以下の流れになります。ニーズの発生から、ソーシング、相手先と出会い、交渉を進めて、クロージング(取引の実行)までのプロセスと注意点を説明します。

  1. ニーズの発生・検討
  2. 準備
  3. 相手探し(ソーシング)
  4. 秘密保持契約の締結(NDA)
  5. 基本条件の開示・交換
  6. トップ面談
  7. 基本合意書の締結
  8. デュー・ディリジェンス(DD)
  9. 最終条件交渉
  10. 最終契約
  11. クロージング

1.  ニーズの発生・検討

M&Aは、ある会社を何らかの理由で「売りたい」もしくは「買いたい」というニーズが発生することで始まります。M&Aの動機として一般的なパターンを紹介します。

M&Aの動機

買収側(譲り受け側)の動機
  • 規模の拡大による市場・顧客確保(同じ業界内での統合によりスケールメリットを出す)
  • 経営資源の確保(人材・技術・ノウハウ・ブランド等)
  • 新規事業の開拓(新しい市場への進出)
売却側(譲渡側)の動機
  • 選択と集中による一部事業・不採算事業の売却(より利益が出る事業に注力して経営合理化を推進するため)
  • 事業承継・創業者の引退(後継者不在のため第三者の事業承継を希望する場合)
  • 創業者利益の確保(創業者の退職金確保等により利益を確定したい)
  • 業績・財政悪化による救済の要請(自社内だけでは状況の改善が見込めず、外部の救済を求める場合)

2. 準備

準備段階の実務は必ずしも必須ではありませんが、準備しておくことでM&Aの交渉が始まった際にスムーズに取引が進むでしょう。

買収側の準備

  • 買収の目的を整理する
  • 買収先の業界や条件等を絞り込む

売却側の準備

  • 売却の目的を整理する
  • 決算書・財務三表(P/L・B/S/・C/F)を揃えておく(過去三期分あると交渉や価値算定がスムーズになります)

3. 相手探し(ソーシング)

相手先を探す方法

実際にはソーシングは仲介者を介して行われるのが一般的です。仲介者は税理士・公認会計士・アドバイザー(仲介会社)等があります。ほかにも中小企業庁管轄の事業引継ぎ支援センターが全国の窓口で無料相談を開設しています。近年では全国の企業との出会いをインターネット上で提供するM&Aプラットフォームを利用するケースも増加しています。[8]

買い手が売り手を探す

買い手が特定の事業や業界について買収希望を持っている場合、その対象となり得る企業リスト(ロングリスト)を作成し、順番にその可能性を検討していきます。その後、数社に絞り込みされたリスト(ショートリスト)に残った会社に対してアプローチしていくことになります。

売り手が買い手を探す

売り手が買い手を探す場合、できる限り良い条件の相手先を探すためにも、会社名を匿名にした上で多くの買い手候補と接触を図る必要があります。その際に事業内容や売上規模、取引先等を匿名で記載した案内書(ノンネームシート)を作成します。その案内書を元に買い手候補をソーシングし、相手から打診(オファー)を受けていきます。

4. 秘密保持契約の締結(NDA)

相手が見つかり、本格的にM&Aの検討が始まる場合、売り手・買い手双方はお互いの詳細な資料を入手する必要があります。資料には未公開の内部情報が含まれています。開示する企業情報を秘密として保持する必要があり、秘密保持契約を締結します。

5. 基礎情報の開示・交換

買い手側の基礎分析

秘密保持契約締結後、買い手はM&Aの効果や妥当性を判断するため、売り手から必要な情報を開示してもらい、決算書や事業報告書、組織図等の様々な資料から初期段階の基礎的な分析を実施します。       

  • 業務面・財務面・人材面の詳しい内情
  • 現状での収益力と成長性
  • 企業価値の算定
  • 統合後のシナジー効果
  • 業務・システム・人的な統合が実現可能か
  • 法的リスクの確認

案件概要書(IM)の提示

売り手側は、事前に上記の買い手側の分析に必要な資料を作成し、買い手候補に共有する場合があります。M&A取引に必要な企業情報及び希望条件を網羅的に記載します。この資料は「案件概要書」もしくは「IM(Information Memorandum )」という名称で扱われる文書です。IMを用意しておけば、売り手はより多くの買い手候補と同時に交渉が進められます。とくにM&Aプラットフォームなど多くのオファーが同時に受け取れる場合にはIMを用意しておくことで、効率的に条件の良い買い手と交渉を進めることができます。

基本条件の提示

ここまでの情報交換で買い手がM&Aを進めたいと判断した場合、基本条件(買収事業・提示価格・取引スキーム、スケジュール等)を書面にまとめて、売り手へ提示することになります。

6. トップ面談      

基本情報の提示後に双方が交渉に進む意思があれば、経営者同士のトップ面談が行われます。自社の魅力を誠実に伝えられるよう以下の心構えをしておくとお良いでしょう。

  • 相手先の企業は敵ではない(必要以上に警戒することはない)
  • 相手に質問したいことをリストアップしておく
  • M&Aにおける優先順位(金額、期限、人材の取り扱い)などを検討しておく
  • 冷静に交渉テーブルに付けるよう複数の相手先候補とやりとりしておく

7. 基本合意書の締結   

トップ面談後、買い手からの基本条件提示を受けて、売り手が同意すれば、基本合意書(MOU)を締結します。基本同意書はM&Aの取引成立を確約するものではなく、それまでに必要なプロセスとスケジュールなどの約束事を双方で明確にするために結ばれます。基本合意書では一般的に以下の事項が明記されます。

  • 合意した基本条件の内容
  • 独占的交渉権の付与
  • デュー・デリデンス実施(法務・財務・ビジネス等様々な観点からの価値・リスク調査)
  • 善管注意義務(取引完了まで売り手が大きく事業の内容を変え得る行動を行わないとする義務)
  • 法的拘束力の有無(基本合意書が法的拘束力を持たないと規定するのが一般的)

8.デュー・ディリジェンスの実施(DD)

基本合意締結後、買収側によるデュー・ディリジェンス(Due Diligence)が行われます。デュー・ディリジェンスとは本来「正当な注意義務」という意味の英語です。買い手企業が売り手企業に関しておこなう実態調査のことをいいます。書面上の調査だけでは分からない会社の実態を把握するために行われます。基本合意で提示された情報の正確性、会社の全ての財産・負債・リスク等を確認していきます。

財務調査や法務調査は専門的な内容となるため公認会計士や弁護士に依頼して実施するケースがほとんどです。ここで買収側に伝えていない売却側の新しい情報が出てくると、M&A自体が中止となってしまうリスクがあります。売却側は買収側に基本合意時点で出来る限りの情報共有をすることが推奨されます。

9. 最終条件交渉

デュー・ディリジェンスの結果を踏まえて、最終的な条件を決定し、最終契約への交渉を進めます。

10. 最終契約

基本条件に変更が無い場合、または条件の変更が双方で合意されれば最終契約となります。

最終契約書には以下の事柄が記載されます。

  • M&Aの対象となる取引内容
  • 現金もしくは株式の引き渡しについて
  • 実行の前提条件
  • 表明及び保証
  • 善管注意義務
  • 役員及び従業員の待遇
  • 秘密保持
  • 競業禁止義務
  • 補償
  • 売却会社経営者の個人保証解除について

表明及び保証

売り手、買い手の双方が相手方に対して、取引の前提となる事実関係を表明し、事実であることを保証します。主に売り手がM&Aの対象会社について、買い手に表明を行います。

  • 対象会社が合法的に事業を行っている
  • 買い手に開示した情報が正確であること
  • 債務等が全て正確に伝えられていること
  • 業績に関するリスクが正確に伝えられていること
  • 対象会社が倒産、破産等の状態にないこと、その予定もないこと

前提条件

売り手及び買い手が取引を行うための前提となる条件を記載します。

  • 表明保証の事項が事実であること
  • クロージングまでに双方が義務を履行すること

このような前提条件を記載します。より具体的な条件を追記して停止条件を記載する場合もあります。

補償

表明保証に違反が判明した場合、それによって相手方に発生した損害額を補償する義務を明記します。ただし、期間や金額に限度が設けられるのが一般的です。

11. クロージング

最終契約書に基づいてM&Aの取引が実行され、株式譲渡や事業譲渡の引き渡し手続きや売却金額の支払手続きによって、経営権の移譲が完了することをいいます。選択したスキームによってクロージングの形が異なります。

株式譲渡のクロージング

株式譲渡では、買い手は売り手から株式を取得します。買い手は売り手側にその代わりに現金等を支払います。売り手は株券の引っ越しや、株主名義の書き換えを行います。新たに株式を発行して付与する場合もあります。

事業譲渡のクロージング

事業譲渡では、譲られる資産・負債・権利義務について個別に移管手続きを行う必要があります。それぞれ第三者の承認を得ながら進めていくため、一定の日付でクロージングが完了することはありません。債権などは第三者の合意が必要なため、クロージングから、事業譲渡が完全に完了するまではタイムラグがあるのが一般的です。それぞれの項目について関係者と合意を重ねてクロージングしていきます。

[8]事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」利用者数より
売却側(譲渡)企業:2018年8月約1,300件→2020年8月約6,300件に増加
買収側(譲り受け企業):2018年8月約1,200社→2020年8月約5,600社に増加

M&A・事業承継
M&Aの流れ・進め方 検討~クロージングまで【図解でわかる】

M&Aの全体的な手続きの流れを売り手・買い手両方の視点で見ていきます。事前準備・検討段階~クロージング・最終契約、経営統合後に必要な業務まで全ての流れを解説します。 目次M&Aの全体的な流れ検討・準備フェ […]

M&Aの種類(スキーム)

M&Aスキーム

M&Aの種類は大きく分けると、合併と買収の二つに分けることができます。ここまでを狭義のM&Aとすることが一般的です。広義な意味合いでは提携までをM&Aと捉える考え方があります。これは企業同士の協業関係までを広義のM&Aと捉える場合です。合併・買収にも様々なやり方があります。それぞれどのような特徴があるのか説明します。

買収

M&Aにおける買収とは、株式の取得もしくは事業資産の取得を通して、対象企業の経営権や事業を譲り受けることをいいます。

株式取得・資本参加

株式取得・資本参加は売却(譲渡)側の株式を買収(譲り受け)側が譲り受ける方法です。株式譲渡・第三者割当増資・株式交換・株式移転などがあります。

株式譲渡

株式譲渡は、売却会社の発行済株式を買収側に譲渡する方式です。買収側は売却側に対して対価を支払う方法です。シンプルな方式で、中小企業のM&Aではよく用いられる方式です。

第三者割当増資

第三者割当増資は、買収企業に新株を引き受ける権利を付与し、新たに発行した株式を割り当てる方式です。買収企業が購入した株式の対価は売却企業に支払われます。

株式交換

株式交換は、売却会社の株式を買収側に提出し、対価として買収会社の新株割当を引き受ける方式です。

株式移転

株式移転は、株式会社が発行済株式の全てを、新たに設立する株式会社に取得させることです。一つの会社が行う場合と、二つ以上の会社で行う方法があります。その代わりに、新たに設立した会社より、株式の割当を受ける方式です。

M&A・事業承継
株式譲渡とは?税務メリット・手続きから譲渡契約書締結まで解説

株式譲渡とは、売却会社の株主が所有している株式を、買収会社に譲渡することで、会社を売買する方法です。事業譲渡と並ぶ、M&Aの代表的な手法です。株式譲渡のメリット・デメリット・手続き方法から、税金額・オーナー手取り […]

事業譲渡・資産買収

事業譲渡

事業譲渡は、売却(譲渡)企業の事業全部または一部を譲り受けます。財産以外にもノウハウ・技術・取引先関係などの無形財産(のれん)の価値も加味されます。売却(譲渡)企業には対価として現金が支払われます。

M&A・事業承継
事業譲渡とは?メリット・手続き・流れ【図解で分かる】

事業譲渡とは、会社がある事業の全部または一部を譲渡することをいいます。企業全体を売買対象とする株式譲渡と違い、譲渡対象の事業を選べるのが特徴です。M&Aの代表的な手法のひとつです。この記事では、事業譲渡の意義、株 […]

会社分割

会社分割は買い手側が売り手側の事業資産を取得するという分類に入るため、買収に含まれます。会社分割には吸収分割と新設分割があります。M&Aでは吸収分割が一般的な手法です。吸収分割の手法が選ばれる理由として、包括承継が可能である点、税務メリットがある点が挙げられます。

  • 吸収分割

吸収分割は、売却企業の一部事業を切り分けて、買収企業に承継します。対価として現金や買収会社の株式等を売却企業に提供します。

  • 新設分割

新設分割は、売却事業の一部事業を切り分けて、新しく設立される会社に承継します。対価として新しく設立された会社の株式を売却企業に提供します。

合併

合併とは、複数の会社が、契約によって一つの法人となることをいいます。吸収合併と新設合併の二つの手法があります。

吸収合併

吸収合併は、合併する会社のうち1社が他の会社を吸収して存続し、他の会社は解散する手法です。吸収した会社は、吸収された企業の財産(資産・負債)や従業員等を引き継ぎます。

新設合併

新設合併は、合併対象の全ての会社が解散して新しい会社(新設会社)を設立します。合併前にそれぞれの会社に属していた従業員・資産及び全ての権利義務は全て新設会社に引き継がれます。吸収合併と比べると、全ての会社を解散する手続きが煩雑なことや、許諾・認可を全て新設会社で取り直す必要があり、更に登録免許税等のコストが発生します。これらの事情から合併の際に新設合併が選択されることはほとんどありません。

提携

提携とは、2社以上の会社が業務、資金面で協力することをいいます。合併や買収と異なり、会社の経営権を取得するも公的がないため、一般的に狭義の意味ではM&Aには含まれません。しかし、業務・資本面で強い協業関係を構築できれば、合併・買収と同じようなシナジー効果が期待できる場合もあります。提携で協業関係がうまくいくことを確認してから合併・買収に進むこともあります。そのため、提携も広義の意味のM&Aとして扱われている場合があります。

業務提携

業務提携とは、特定の分野で複数の企業が業務上の協力関係を持つことです。お互いの事業の弱みを補い、強みをより活かせるような相乗効果(シナジー効果)を生み出すために取られる手法です。一般的には協業関係を明確にするために「業務提携契約」を取り交わします。

資本提携

資本提携とは、一方の企業が他の企業の株式を取得する、もしくはお互いの株式を持ち合うことにより、業務提携関係をより強くする方法です。この方法は買収と似ていますが、相手企業の経営権を取得することを目的としていないのが異なる点です。

M&A・事業承継
M&Aスキーム(手法)の種類・特徴・メリット・税金を図で解説

M&Aのスキーム(手法)には多くの種類があります。目的にあわせた方法を選ぶことで、利益を最大化することができます。今回は各スキームごとの特徴・メリット・デメリット・かかる税金・成功事例を解説します。 目次M&am […]

M&Aにかかる税金

M&Aには様々な手法があり、それぞれ手法により発生する税金が異なります。
ここでは代表的な手法である株式譲渡及び事業譲渡に掛かる税金について解説していきます。

株式譲渡にかかる税金

株式譲渡を用いる場合には、株式取得側に税金はかかりません。一方で、売却側においては個人であれば所得税、住民税、復興特別所得税がかかることになります。法人であれば法人税がかかることになります。

個人が株式を譲渡する場合

所得税

株式を譲渡するにあたって、所得税がかかります。株式を譲渡した際に利益(取得金額より高く譲渡)が発生すると、その利益(税務上は利益を所得といいます)について課税対象となります。
所得税は所得の増加に合わせて税率が上がる超過累進課税制度となっていますが、株式譲渡については所得に対して一律15%課税[9]されることになります。また、所得税の計算は総合課税で計算されますが、他の所得税の計算と別で計算される申告分離課税となっています。

復興特別所得税

復興特別所得税[10]は2011年に発生した東日本大震災の復興を目的に作られた特別所得税となっており、2013年から2037年までの期間徴収されます。

復興特別所得税は所得税の2.1%と決められています。上記から15%×2.1%=0.315%となります。

住民税

株式譲渡にあたって住民税もかかることになります。税金の計算方法は所得税と同じ方法で計算され、所得に対して一律5%課税されることになります。

所得税、住民税を合わせると株式譲渡の所得に対して20.315%の税金が課されることになります。

所得の計算方法

ここまで各税金の税率を中心に解説してきましたが、税金計算のもととなる所得について解説していきます。
所得税、住民税における所得ですが、以下の計算式で計算されます。

課税所得=総収入金額-(取得費(※)+委託手数料等)[9]
(※)取得費=取得金額+付随費用(取得にかかる手数料など)

節税方法簡単に言えば、売れた金額から買った金額と委託手数料等を差し引いた金額が所得になります。
この課税所得に上述した税率(20.315%)を乗じたものが譲渡に係る税金となります。

株式の譲渡ですが、譲渡する会社の役員などであった場合、株式の譲渡代金の一部として退職金を支払うケースがあります。譲渡代金の一部の支払いを退職金とすることで、譲渡代金が下がり、譲渡所得が減少することと、譲渡企業では退職金を費用として計上することができるので法人税の課税所得を下げることができます。
株式を譲渡する側においては、譲渡代金が下がりますが、一方で退職所得が増えます。そうなると、所得自体は変わらないからメリットがないのではないかと思いますが、そんなことはありません。その理由は、退職所得に関しては以下の計算方法が影響します。

(収入金額(源泉徴収される前の金額)-退職所得控除額)×1/2=退職所得[11]

上記の式を見たらわかるように所得が1/2となるので、株式の譲渡金額の一部を退職金として支払うことで節税ができるのです。

ただし、ここで注意が必要な点があります。先述したとおり、所得税は超過累進課税制度となっています。つまり、株式の譲渡所得で見た税率と所得税にかかる税率の兼ね合いにより、どちらでもらう方がいいのかが変わります。また、退職所得では退職所得控除額があるので勤務年数も影響しますので、合わせて考慮が必要です。

法人が株式を譲渡する場合

法人が株式を譲渡することはなかなかケースとして少ないですが、法人が株式を譲渡した場合は法人税が課されることになります。法人税も超過累進課税となっており、課税所得(その他事業などにより稼いだ所得も含む)により税率が異なります。また、法人税における課税所得の計算方法は、個人の場合とほぼ同様なので説明を割愛します。

事業譲渡にかかる税金

事業譲渡に関しては売り手側と買い手側のそれぞれで税金がかかりますのでそれぞれの観点に分けて解説していきます。

売り手側の税金

消費税

消費税は、買い手側が負担することになりますが、納付するのは売り手側となります。そのため、事業譲渡においても売り手側が預かって納付することになります。消費税は、譲渡する資産の中でも課税対象となる資産と課税されない資産があります。主なものは以下の通りとなります。

課税資産:土地以外の有形固定資産(建物など)、在庫など
非課税資産:土地、有価証券、債権など

法人税消費税率は、国税である7.8%と地方税となる2.2%の合計10.0%となっており、上記の課税対象となる資産に乗じて計算されることになります。

事業譲渡において法人税は譲渡益が発生した場合には課されることになります。譲渡損益の計算は以下の通りとなります。

譲渡損益=売却金額-譲渡資産の簿価(取得した金額から価値の下落分(いわゆる減価償却費)を引いた金額)

上記の計算で売却金額の方が大きければ譲渡益となり、簿価の方が大きければ譲渡損となります。ここで計算された譲渡損益と事業で稼いだ課税所得を合わせて法人税の計算がされることとなります。

買い手側の税金

消費税

消費税は売り手側でも解説した通り、買い手側が負担することになります。

計算方法は売り手側と同様で、計算された消費税を買い手側に支払うことになります。売り手側から請求される金額が正しいのかは確認の上、支払う必要があります。

不動産取得税

事業譲渡の対象資産に不動産が含まれている場合は、不動産取得税を支払う必要があります。不動産取得税は、固定資産税評価額の4%(非住宅家屋の場合)となります。

不動産取得税ですが、不動資産を取得した場合に課税されるものであり、事業譲渡と似た方法である会社分割の場合は不動産取得税の対象となりません。不動産取得税だけを考えるとメリットがありますが、論点が様々あり一概にどの手法がよいと言うことではありませんが、不動産の金額が大きくなるケースは検討する余地はあります。

登録免許税

登録免許税も不動産に関連する税金ですが、不動産の書き換えを行うにあたって課されるものとなります。登録免許税は、土地、建物それぞれ固定資産税評価額の2%で計算されます。

[9]株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)(国税庁)
[10]個人の方に係る復興特別所得税のあらまし(国税庁)
[11]退職金を受け取ったとき(退職所得)(国税庁)

M&Aにかかる手数料

M&Aをするにあたっては専門家を使って実施することが多いです。そもそも、売るとしても相手を探すのは難しく、買うとしても同様のことが起こります。また、どのようなスキームをするにしても、法律的にも税務的にも難しいことが多いため、その辺においても専門家に助言をもらう必要があるため、専門家を使うことになります。

一般的なM&A仲介会社の手数料例に加えて、手数料が割安で近年急速に普及しているM&Aプラットフォームについても解説します。

M&A仲介会社の手数料

手数料の種類

M&Aの仲介手数料は仲介会社により異なりますが、目安として、参考金額を紹介します。

項目 金額
相談料 〜1万円
着手金 〜200万円
中間金 〜200万円あるいは成功報酬に応じて
月額報酬(リテイナーフィー) 〜200万円(月額)
成功報酬 売却金額に応じて

それでは、それぞれの報酬の内容を解説していきます。

相談料とは

相談料は正式な依頼をする前に、相談した際にかかってくるものとなります。仲介会社の専門的な知見や経験に基づき、アドバイスをもらった際に発生するものとなりますが、たいていの仲介会社では相談料はかかりません。

着手金とは

着手金はM&Aの案件がスタートした際に支払った手数料となります。着手金は案件が完了しなくても返金されないケースが多いです。大半の仲介会社は着手金を支払うことが多いのですが、中には無料の仲介会社もあるのでどうしても無料の方がよければ探してみましょう。

中間金とは

中間金とは基本合意書などを締結したタイミングで支払うものになります。この後、最終合意やクロージングなど最終契約に向けて進んでいきます。基本合意書を締結したからといって最終契約まで進むとは限りませんが、中間金は返金されません。中間金も着手金と同様で仲介会社によって設定されていない会社もありますので支払いたくなければ探してみましょう。

月額報酬とは

月額報酬はいわゆるリテーナーフィーと呼ばれるものになります。M&Aを進めるにあたっては様々な作業が発生します。それに対して毎月支払われるもので案件が成立するまで支払うものとなります。月額報酬もかからないケースもあるため、仲介会社に確認してみましょう。

成功報酬とは

成功報酬とはM&Aが進み、最終契約書を締結したタイミングで支払う手数料となります。M&Aが成立しなければ支払う必要がないものとなります。

成功報酬はレーマン方式と呼ばれる方法で計算される会社がほとんどです。レーマン方式とは以下の表のような形で計算されるものとなります。

取引金額 報酬料率
〜5億円 5%
5億円〜10億円 4%
10億円〜50億円 3%
50億円〜100億円 2%
100億円〜 1%

仲介会社によって設定は異なりますが、上記のように金額によって料率が変わるものがレーマン方式となります。具体的な数字を使いながら計算方法を解説していきます。

例えば、取引金額が15億円の場合を考えてみましょう。上記の表から、以下の計算になります。

5億円×5%+(10億円-5億円)×4%+(15億円-10億円)×3%=6,000万円

金額の段階に基づきそれぞれの率で計算されるため、やや複雑な計算方法となります。

M&Aプラットフォームの手数料

M&Aプラットフォームは、売り手側、買い手側がインターネット上のシステムに登録することで、マッチングをはじめとするM&Aの手続きを低コストで行うことができる支援サービスです。M&A仲介会社と比較して、成約時手数料が低く抑えられるのが特徴です。

一例としてビズリーチ・サクシードの手数料を紹介します。売り手側と買い手側では手数料が異なるので、それぞれの手数料をみていきましょう。

売り手側の手数料

一般的なM&A仲介会社では売り手企業は着手金や成功報酬がかかりますが、ビズリーチ・サクシードでは完全無料となっております。

  ビズリーチ・サクシード M&A仲介会社の例
着手金 なし 100万円
中間報酬 なし 成功報酬の10%〜20%
成功報酬 なし 譲渡対価の5%

買い手側の手数料

着手金や中間手数料は無料です。成功報酬型(1.5%~2%)で、実際に成約するまで料金は発生しません。

M&Aの件数推移

M&A件数

日本で公表されているM&A成約件数は2004年に2,000件を超えた後、2017年に3,000件を超え、更に2019年には4,088件と急増しています。[12]

M&Aが急増している背景としては以下の理由があります。

後継者の不在

日本は急激な少子高齢化により、事業の担い手が不足しています。経営者で2025年までに平均引退年齢の70歳を超えるのは約245万人、そのうち約半数の127万人が後継者未定と見込まれています。親族や社内での後継者が見つからない場合、第三者に事業を引き継ぐ、事業承継が増加しています。

国内市場規模の縮小

少子高齢による人口減少等や経済のグローバル化の影響を受けて、日本市場は飽和状態となり、市場は縮小傾向にあります。市場が縮小していく中で生き残るために様々な業界再編が起きています。IIT・物流会社・インフラ・コンビニ・百貨店・薬局・小売などあらゆる業界でM&Aによる再編が進んでいます。成約手数料の安いM&Aプラットフォーム等の登場により、大手企業だけでなく、中小企業同士のスモールM&Aも多く見られるようになっています。

[12] グラフで見るM&A動向(MARR Online)

M&Aの歴史

M&Aの歴史ですが、日本ではここ最近大きく取り上げられるようになってきましたが、実は戦前からも大きなM&Aが盛んに行われてきた歴史があります。日本と海外(アメリカ)に分けてM&Aの歴史を解説していきます。

日本におけるM&Aの歴史

日本のM&Aですが、戦前から行われてきました。戦前と戦後に分けて過去のM&Aをみていきましょう。

戦前のM&A

日本初期のM&A

日本で初期に行われたとされるM&Aは19世紀末まで遡ります。その頃の主力産業は紡績業で、海外の紡績産業が台頭したことで日本の紡績業は圧迫され、輸出が伸び悩みました。また、原料輸出の高騰や賃金の上昇により、生産コストが上がりました。

その問題を打開するためにするために用いられたのがM&Aでした。カネボウ株式会社の前身である鐘淵紡績株式会社はM&Aによって、規模を拡大し日本最大の企業まで発展しました。

財閥によるM&A

今では財閥と呼ばれる三井、三菱、住友などの財閥は多くの企業を買収し、M&Aを積極的に行いました。

20世紀前半、乱立していた電力業界ですが、激しいM&A合戦が繰り広げられ、5社に集約されました。その熾烈な争いに終止符を打ったのが上述した財閥と中央官庁の役割を担っていた逓信省でした。電力会社のカルテル(企業連合)組織を組み、停戦協定を締結しました。

その後財閥においては財閥傘下の企業の再編が進められ、例えば三菱財閥の傘下の三菱造船と三菱航空機が合併し、三菱重工業の成立、住友鋳鋼所と住友伸銅所が合併し、住友金属工業が成立しました。

その他の企業再編

1934年には官営八幡製鉄所と6つの民間企業が合併し、今の新日本製鐵株式会社の前身である日本製鐵株式會社が設立されました。また、そのほかにも王子製紙、富士製紙、樺太工業が合併し王子製紙株式会社の発足、札幌麦酒、大日本麦酒、大阪麦酒の3社によりアサヒビールやサッポロビールの前身である大日本麦酒が発足しました。

戦後のM&A

戦後直後のM&A

ここまで業界再編が行われてきた日本ですが、戦後は一旦逆の方向へ動きます。GHQにより財閥解体が進められ、50社以上の企業が会社分割、事業譲渡が進められました。さらに独占禁止法により、企業統合による過度な集中に対しての制限が加えられ、公正かつ自由な競争が促進されるように進められました。

2000年代までのM&A

その後、時は流れて1980年代半ばから後半にかけては外資系企業の買収が進みました。その後、バブルが崩壊し、企業の収益力や国際競争力の回復を企図し、事業再編の援助として株式会社・会社分割制度などの整備が進められ、合わせて民事再生法や会社更生法などの法律の快晴も進められた状況となっています。

その後、livedoorの企業買収、村上ファンドなどのニュースがメディアで大きく取り上げられたこともあり、「M&A」が日本でも馴染みある言葉となりました。

現代のM&A

リーマンショック後の2010年に約1,500件近くまで落ち込んだM&A件数は2019年には4,000件を超えました。M&Aは いくつものブームを超えて、企業の成長戦略の一つとなりました。日本においては少子高齢化による市場縮小や後継者不在という背景もあり、中小企業庁が中心となり国策として中小企業M&Aガイドラインを策定し、M&Aを推進する大きな流れが加速しています。[13]

世界におけるM&Aの歴史

M&A黎明期(20世紀初頭)

世界のM&Aの歴史をふりかえると、まず20世紀初めの米国で、アメリカンタバコがライバル企業であるラッキーストライクカンパニーなど200社以上を買収ました。モルガングループのUSスチールは当時最大のカーネギー製鋼を買収するなど、鉄鋼生産の3分の2を占めました。こういった巨大独占企業がM&Aによって誕生しました。

GMやユニオン・カーバイトによる成長戦略としてのM&A(1900年代前半~)

その後、1907年の反トラスト法(独占禁止法)の制定の影響を受けながらも、GMやユニオン・カーバイドなどが成長戦略としてM&Aを活用し、そのブームは大恐慌まで続きました。

ITTに代表されるコングロマリット企業の誕生(1960年代~)

1960年代になるとさらに強化された反トラスト法の下、ITT(航空宇宙産業・エネルギー産業などを経営)に代表される、多角的な事業展開をするコングロマリット企業が台頭しました。

LBOブーム(1980年代~)

その後、1980年代後半にはLBO(レバレッジド・バイ・アウト)ブームが起きました。買収会社が買収資金を銀行等から借り入れて、その債務を売却会社が負う手法です。

IT革命・EU統合をきっかけとした株式交換の急増(2000年前後~)

1997年から2000年にはIT革命、EU統合をきっかけとした世界的なM&Aブームで株式交換によるM&Aが急増しました。

リーマンショック前のPEブーム(2006~2007年)

2006年から2007年のブームではリーマンショック前まで、プライベート・エクイティ・ファンドがM&A全体の四分の一を占めるまで増加しました。機関投資家からの出資を元に事業会社や金融機関の未公開株を取得し、企業価値を高めた後に売却することで、キャピタルゲイン(売買差益)を得る手法です。

M&A市場の未来~コロナ禍の市場動向~

2020年、新型コロナウイルス感染症 の発生によって、企業経営は更なる合理化と資金調達が必要な局面にあります。買収企業は規模の拡大とシナジー効果を求めてM&Aに投資し、売却企業は差し迫った資金調達の必要性によってM&Aを模索しています。事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」では利用企業を対象に「M&Aに関するアンケート」を行いました。

その結果、9割以上の企業が今後M&A市場が「活性化する」と回答しています。[14]2020年~5月の売却企業の新規登録者数は前年同期比4.3倍となり、M&A市場活性化の傾向が見られます。業界再編や企業のDXが進む中で、今後益々M&Aを活用した企業統合が加速すると考えられます。

[13] 中小M&Aガイドライン(中小企業庁)
[14] ビズリーチ・サクシード、譲渡(売却検討)企業の新規登録社数:前年同期比4.3倍(事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」)

M&A成功事例

2019年は過去最高の4,088件のM&Aが行われましたが、2020年も多くのM&A事例が報告されています。2020年7月のM&A件数は「過去10年で最多」[15]となりました。最新のM&A成功事例を大企業・中小企業それぞれに紹介します。

大企業のM&A成功事例

「いきなり!ステーキ」運営のペッパーフードサービスが「ペッパーランチ」事業売却

「いきなり!ステーキ」などを展開する外食大手のペッパーフードサービスが7月、「ペッパーランチ」事業を売却しました。[16]「いきなり!ステーキ」事業に経営資源を集中するための「選択と集中」によるM&Aです。売却金額は85億円です。この資金によって業績の立て直しを図る見込みです。

武田薬品がアリナミンなどの大衆薬事業を売却

武田薬品工業は8月、ビタミンB1製剤である「アリナミン」や風邪薬「ベンザブロック」などを製造する連結子会社の武田コンシューマーヘルスケアの全株式を売却すると発表しました。[17]売却金額は約2,420億円です。今後、収益性の高い、医療機関向けの事業に資源を集中させ、相乗効果が薄い事業の売却を進めています。

中小企業のM&A成約事例

アクティビティ(観光商品等)を売買するCtoC WEBサービスのM&A成約

  • 譲渡企業: 株式会社LIG 様
  • 譲り受け企業:埼玉県のIT企業 様

Webサイト制作をはじめ、自社メディアやコンテンツ制作、地方創生事業、シェアオフィス、英会話スクールなど多角的な事業展開をしている株式会社LIG様。そのなかでアクティビティ(観光商品等)を売買するCtoCサービスを埼玉県のIT 企業に譲渡された事例です。

成功事例
【M&A事例】すぐ譲渡を考えていない企業も“活用しない理由は無い”。ビズリーチ・サクシードで事業の価値を把握し、譲渡に成功。

Webサイト制作をはじめ、自社メディアやコンテンツ制作、地方創生事業、シェアオフィス、英会話スクールなど多角的な事業展開をしている株式会社LIG。 今回、そのなかでアクティビティ(観光商品等)を売買するCtoCサービスを […]

ゴーゴーカレーと本場インド料理店サムラートのM&A成約

  • 譲渡企業:有限会社スニタトレーディング 様
  • 譲り受け企業:株式会社ゴーゴーカレーグループ 様

「美味しいカレーを世の中に広め、世界を元気にする事」をミッションに、国内外での店舗拡大や販路拡大、事業譲受によるブランド拡大を精力的に行なわれている株式会社ゴーゴーカレーグループ様。公募企画をきっかけに、約40年の歴史を持ち、国内7店舗を展開する「本場インド料理店サムラート」の工場を買収されました。この工場の特徴は、イスラム法で許された“ハラール料理”を作ることができること。世界展開への構想が一気に広がった事例です。

成功事例
【M&A事例】1+1=100になるM&A。パートナーを組むことで鮮明になった世界展開

「美味しいカレーを世の中に広め、世界を元気にする事」をミッションに、国内外での店舗拡大や販路拡大、事業譲受によるブランド拡大を精力的に行なっているゴーゴーカレー。 今回は、ビズリーチ・サクシードでの公募 をきっかけに、約 […]

ネイルチップECサイトを大手織物メーカーがM&A、利益率を向上させるシナジー効果を発揮

  • 譲渡企業: 株式会社ミチ 様
  • 譲り受け企業:丸井織物株式会社 様

1956年に設立し、石川県に本社を置く大手合繊織物メーカーの丸井織物株式会社様。圧倒的な企業成長のためにM&Aを経営戦略の大事な柱とし、2~3年の間に5社をグループ化されています。2018年に子会社化したオリジナルラボ株式会社の執行役員CFO・尾川祐樹氏がビズリーチ・サクシードを活用してお声がけした企業の事業を、丸井織物が譲り受けました。丸井織物のノウハウにより、これまでM&Aで傘下となった子会社は利益率が改善しています。大手資本に入ることにより、独立を保ちつつも、安定した資本で新たなチャレンジが可能となりました。

成功事例
【M&A事例】シナジーを生むM&Aによって、買い手企業と売り手企業の双方がwin-winの関係に

1956年に設立し、石川県に本社を置く大手合繊織物メーカーの丸井織物株式会社。 2011年に常務取締役の宮本智行氏がジョインして以降、圧倒的な企業成長のためにM&Aを経営戦略の大事な柱とし、2~3年の間に5社をグ […]

M&A・事業承継
M&A成功事例38選 大企業・中小企業・業界別|2020年版

今回は大企業・中小企業別、業界別に厳選したM&A事例38選を紹介します。国内・海外の大企業事例から中小企業事例まで、譲渡・譲り受け企業の概要、M&Aの目的・M&A手法、成約に至るまでを解説します。 […]

[15] なぜ、コロナ禍でも「過去10年最多のM&A」が続いているのか(幻冬舎ゴールドオンライン)
[16] 「いきなり!ステーキ」立て直しで「ペッパーランチ」売却へ
[17] 武田薬品 アリナミンなど一般消費者向け事業の子会社を売却