有限会社の売却は可能?手続きや売却価格、注意点を徹底解説

有限会社の売却は、株式譲渡と同じ手続きで行えます。ただし、売却に際してはいくつか注意点があります。公認会計士が、有限会社の売却で必要な手続きや売却価格の決め方、注意点をくわしく解説します。(公認会計士 西田綱一 監修)

有限会社 売却(FV)

目次
  1. 有限会社とは
  2. 有限会社は売却できるのか?
  3. 有限会社を売却する際の手続き・方法
  4. 有限会社の売却価格はどう決まる?
  5. 有限会社の売却における注意点
  6. 有限会社を買収するメリット
  7. まとめ

有限会社とは

まずは有限会社がどのようなものなのかについて、説明します。
そしてその上で、有限会社と株式会社の違いについても解説します。

有限会社の意味

有限会社とは、平成18年の法改正前には設立することができた会社の一形態のことです。
現在は、有限会社を設立することはできません。[1]

平成18年以前は、株式会社の設立にあたっては、資本金が最低1000万円以上必要でした。
そのため、株式会社を設立したくてもできない人が有限会社を設立するというケースが少なくありませんでした。

有限会社は、基本的には、株式会社と近い会社形態です。
しかし有限会社の設立時の資本金は300万円以上であることや、有限会社の従業数は50名以下でないといけないことなどの制限がありました。

現存の有限会社は「特例有限会社」として扱われる

平成18年の会社法施行に伴い、有限会社について規定されていた有限会社法は廃止になりました。[2]
そして会社法施行以前に設立されていた有限会社は、商号中に「有限会社」の文字を用いながら、

「株式会社」として、会社法施行後も存続することになりました。[3]

有限会社 株式会社

現存している有限会社は、法律上の手続きを行えば有限会社以外の株式会社に変更できます。[4]
ただしそうした手続きをせずに、有限会社のまま存続している会社もあります。
このような会社のことを「特例有限会社」といいます。

現存する有限会社〇〇〇と名乗っている会社は、この特例有限会社です。

有限会社と株式会社の違い

有限会社 株式会社 違い

特例有限会社と特例有限会社以外の株式会社は、基本的には近いものです。
しかし特例有限会社は特
例有限会社以外の株式会社と、主に以下の点などで、違いがあります。

特例有限会社以外の株式会社

  • 株式の第三者への譲渡を制限するには、定款で定める必要がある。[5]
  • 取締役の任期には制限がある。[6]
  • 決算の公告義務がある。[7]
  • 取締役会、監査役会、会計監査人などが機関として認められている。[8]

特例有限会社

  • 定款で定めなくても、株式の第三者への譲渡には制限がある。[9]
  • 取締役の任期に制限がない。[10]
  • 決算の公告義務がない。[11]
  • 取締役会、監査役会、会計監査人などが機関として認められていない。[12]

[1]会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下、「整備法」と記載する。)4
[2]整備法1条
[3]整備法2条
[4]整備法45条
[5]会社法107条1項1号、108条1項4号
[6]会社法第332条
[7]会社法440条
[8]会社法326条2項
[9]整備法9条
[10]整備法18条
[11]整備法28条
[12]整備法17条

有限会社は売却できるのか?

ここまで有限会社の概要や、特例有限会社と特例有限会社以外の株式会社との違いについて述べてきました。
その中で、特例有限会社は定款で定めなくても、第三者への株式譲渡には制限がある旨をお伝えしましたが、そもそも、特例有限会社は売却できるのでしょうか。

結論として、特例有限会社は、特例有限会社以外の株式会社と同様に、株式譲渡のスキームで売却できます。
ただし特例有限会社以外の株式会社の売却とは、手続き上の違いがあります。

詳細は次章にて説明します。

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特例有限会社以外の株式会社の売却とは、どのような手続き上の違いがあるのでしょうか。

基本的には株式譲渡制限会社と同様の手続きが必要

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株式譲渡制限会社の株式譲渡の承認は、取締役会設置会社では、原則として、取締役会の決議で行なわれます。[13]
一方、特例有限会社の株式譲渡の承認は、原則として、株主総会の普通決議が必要となります。[14]

先述したように、特例有限会社は取締役会を置くことが出来ません。
そのため、株式譲渡の承認を取締役会で行なうことはできません。

定款を変更することで、承認機関を変更できる

特例有限会社の株式譲渡の承認は、原則として、株主総会の普通決議が必要となる旨を述べましたが、株式譲渡を誰が承認するかについては、定款を変更することで変えることができます。[15]

定款に別段の定めがなければ、定款変更は株主総会の特別決議によって行ないます。[16]
特別決議は、特例有限会社以外の株式会社であれば、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成で可決します。[17]

しかし、特例有限会社では、原則として、総株主(頭数)の半数以上、かつ、総議決権の4分の3以上の賛成が必要です。[18]

特例有限会社以外の株式会社では過半数の株式を保有していれば、1人でも特別決議を可決できるケースがあります。
一方、特例有限会社では、少なくとも株主の半数以上が賛成しないと特別決議を可決できません。
そのため、特例有限会社以外の株式会社に比べて、特別決議の可決要件は非常に厳しいものであると言えます。

この特別決議を経た後なら、例えば株式譲渡には代表取締役の承認が必要という定款変更をして、株式譲渡で会社売却を行なうという流れを取ることができます。

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[13]会社法139条
[14]整備法9条1項、会社法139条1項、会社法309条1項
[15]会社法139条1項但し書
[16]会社法466条、会社法309条2項11号
[17]会社法309条2項
[18]整備法14条3項

有限会社の売却価格はどう決まる?

特例有限会社を売却する際の手続き・方法について説明しました。
ここからは、特例有限会社の売却価格の決め方について説明します。

特例有限会社の売却価格は売り手と買い手の交渉の結果、決まります。
ただし、売却価格にはある程度の相場があり、相場は理論に基づいて算出されるケースが少なくありません。

株式会社と同様に、企業価値を基準に決定する

有限会社の売却価格の相場は、株式会社の売却価格の相場と同様に、企業価値を基準に決定します。

企業価値評価の方法

企業価値の評価方法には、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、コスト・アプローチの3つのアプローチがあります。

M&A バリュエーション(FV)

インカム・アプローチ

インカム・アプローチは、特例有限会社の収益力をベースに企業価値を評価する方法です。

インカム・アプローチの内、最も代表的なのはディスカウンテッド・キャッシュフロー法です。
ディスカウンテッド・キャッシュフロー法は、特例有限会社の将来期待される一連のキャッシュフローを、リスク等を反映した割引率で割り引いて評価する方法です。

インカム・アプローチにおいては、ディスカウンテッド・キャッシュフロー法以外に、APV法や割引配当モデルなどがあります。

  • APV法:割引率や資本構成の変化を織り込んだキャッシュフローの現在価値を利用して算定する方法
  • 割引配当モデル:将来の予想配当を資本還元して算定する方法

マーケット・アプローチ

マーケット・アプローチは、 株式市場での市場価格をベースに企業価値を評価する方法です。
特例有限会社の評価方法としてマーケット・アプローチが用いられるケースは多くないですが、企業価値の評価方法としては著名なものであるため、簡単に説明しておきます。

  • 市場株価平均法:上場企業の一定期間の平均株価より算定する方法
  • 類似会社比較法:類似上場企業の株価倍率を基に算定する方法
  • 類似取引比較法:過去の類似したM&Aでの取引価格を基に算定する方法

コスト・アプローチ

コスト・アプローチは、特例有限会社の純資産をベースに企業価値を評価する方法です。

  • 時価純資産法:会社の資産の時価より負債の時価を控除して、純資産の価値を評価する方法
  • 簿価純資産法 貸借対照法上の純資産を用いて評価する方法

特例有限会社の売却価格の相場は「時価純資産+2〜5年分の営業利益」

特例有限会社の評価方法には、時価純資産法を用いるケースが多いです。
具体的には、特例有限会社の売却価格の相場を「時価純資産+2〜5年分の営業利益」で計算することが多いです。

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有限会社の売却における注意点

ここからは、有限会社の売却における注意点について説明します。
特例有限会社を売却する理由は会社によってさまざまですが、代表的な理由としては以下の2つが挙げられます。 

  • 後継者がいないため売却する
  • 休業している有限会社の処理として売却する

後継者不在の特例有限会社が廃業すると、従業員の雇用が失われたり、サプライチェーンに支障が生じたりするなど、悪影響を生じさせるおそれがあります。
そこで、特例有限会社を社外の第三者に譲り渡して存続させることにより、雇用の受皿を守ることができます。

また、取引先との取引関係を継続させることができれば、地域におけるサプライチェーンの維持にも資することにも繋がります。

こういったことを背景に、後継者がいないことを理由に、特例有限会社を売却するケースがあります。
また休業している有限会社の処理に困り、売却するケースも少なくありません。

会社法の規定上では、休眠会社とは「株式会社であって、当該株式会社に関する登記が最後にあった日から十二年を経過したもの」とされています。[19]
言い換えると、休眠会社は長期間事業活動をしていない会社のことです。
休眠会社とは言え、存続にはコストがかかることなどを背景に、売却するケースがあります。

特に後継者がいないという理由から行われる有限会社の売却においては、売却後に社員の待遇が悪化する可能性があることや、契約条件の変更により顧客や取引先に迷惑をかけるリスクがあることなどの注意点があります。

売却後に社員の待遇が悪化する可能性がある

労働契約法には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とあり、有限会社を売却したからと言って、必ず、従業員が解雇されるとは限りません。[20]

しかし売却後に、早期希望退職制度の実施、退職勧奨、合意退職者の募集などが行われる可能性は十分にあります。

また労働契約法には、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」とあり、有限会社を売却したからと言って、必ず、従業員の待遇が悪くなるとは限りません。[21]

さらに労働契約法により、就業規則の変更による場合も、労働者の同意なくして、労働条件を不利益に変更できないのが原則です。[22]
とは言え、従業員の待遇が悪くなる可能性は想定せねばなりません。

そのため従業員の待遇が悪くなることを避けたければ、あいまいにせず、会社の売買契約において、売却後の従業員の処遇について、明確に決めることが理想的であると言えます。
また、売却の成立後、従業員に売却の旨を周知するとともに、契約内容や売却後の待遇を説明することも、売買後の移行をスムーズに行なうための有効な手段となるでしょう。

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契約条件の変更により、顧客や取引先に迷惑をかけるリスクがある

通常、取引ルールや業務フローは会社ごとに異なります。
そのため売却後には契約条件・取引ルール・業務フローが変わるのが通常です。
そのため、顧客や取引先が納得してくれずに離れていく可能性があります。

顧客や取引先との契約条件・取引ルール・業務フローについては、売却前にしっかりと理解しておいた方が良いでしょう。
売却成立後には、重要な顧客や取引先に挨拶回りを行ない、不安要素を払しょくするのも良いでしょう。

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[19]会社法第472条
[20]労働契約法16条
[21]労働契約法8条
[22]労働契約法9条

有限会社を買収するメリット

特例有限会社の売却における注意点について説明しましたが、ここからは特例有限会社を買収するメリットについて説明します。

特例有限会社を買収するメリットとしては、特例有限会社はその存続にかかるコストが低めであること、特例有限会社は計算書類を公開する必要はないこと、社歴が長いことがプラスのアピールになることなどがあります。

会社の存続にかかるコストが低い

上述したように、特例有限会社の取締役には任期の限定がありません。
一方、特例有限会社以外の株式会社であれば、取締役の任期は、原則、2年です。
役員の変更は登記事項なので、役員が変わればその都度登記を行う必要があり、そのたびに登記費用がかかります。

こういったことのように、特例有限会社の存続のためのコストは、特例有限会社以外の株式会社の存続のためのコストより、低いことがメリットであると言えます。

買収後に、会社の計算書類を公開せずに済む

先述したように、特例有限会社以外の株式会社には決算の公告義務があります。
一方、特例有限会社には決算の公告義務はありません。
そのため、買収後には、会社の計算書類を公開せずに済みます。

社歴の長さをアピールでき、社会的信用性が高い

有限会社は平成18年の法改正後には設立できなくなりました。
そのため現在、特例有限会社として存続している会社は、それ以前に設立された会社です。
つまり、一定以上社歴がある会社であると言えます。

つまり特例有限会社は社歴の長さをアピールできますし、結果として、社会的信用性が高くなります。

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まとめ

ここまで、有限会社の売却について説明しました。
有限会社の意味や有限会社と株式会社との違い、有限会社売却のための手続き・方法、売却価格の算定方法、売却における注意点などについて解説し、有限会社を買収するメリットも述べました。

現在は設立できない有限会社は、株式会社の1種である特例有限会社として存続しています。
株式譲渡や取締役の任期などについて特例有限会社と特例有限会社以外の株式会社には違いがあります。

特例有限会社は、基本的には、株式譲渡制限会社(非公開会社)と同様の手続きで売却できるものの、承認機関など一部に違いがありました。

企業価値の算定には、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、コスト・アプローチがあり、特例有限会社の評価方法には、コスト・アプローチの内、時価純資産法を用いることが多いです。
具体的には、特例有限会社の売却価格の相場を「時価純資産+2〜5年分の営業利益」で計算するケースが少なくありません。

売却にあたっては従業員・顧客・取引先への影響を考慮しなければならない点に注意が必要ですが、売却にはメリットもありました。
特例有限会社の売却にあたっては、特例有限会社以外の株式会社との違いに留意してください。

今回の記事がM&Aについての皆様の理解を深めるきっかけになれば幸いです。

(執筆者:公認会計士 西田綱一 慶應義塾大学経済学部卒業。公認会計士試験合格後、一般企業で経理関連業務を行い、公認会計士登録を行う。その後、都内大手監査法人に入所し会計監査などに従事。これまでの経験を活かし、現在は独立している。)