M&Aスキーム(手法)の種類・特徴・メリット・税金を図で解説

M&Aのスキーム(手法)には多くの種類があります。目的にあわせた方法を選ぶことで、利益を最大化することができます。今回は各スキームごとの特徴・メリット・デメリット・かかる税金・成功事例を解説します。(中小企業診断士 鈴木裕太 監修)

目次
  1. M&Aにおけるスキーム(手法)とは
  2. M&Aスキームの種類一覽
  3. M&Aスキームごとの特徴・メリット・デメリット
  4. M&Aスキームごとの成功事例10選
  5. M&Aスキームのまとめ

M&Aにおけるスキーム(手法)とは

M&Aにおけるスキームとは、M&A(会社・事業の売買や合併)で用いられる手法と、それを実行する一連の流れのことです。

代表的な手法としては株式譲渡事業譲渡があります。

どのスキームを選択するかによって、M&Aによって得られる利益や、税務・会計上のメリット・デメリットがあり、必要な手続きも変わります。目的や対象企業・事業の特性に合わせて、どの手法が最適かを考慮することが大切です。

M&Aスキーム選定の検討が不十分な場合、不必要な資産や負債を引き継いでしまったり、想定していたM&Aのメリットを得られない場合もあるため注意が必要です。

上記のような事態を避けるために、売買対象やM&Aの目的、スケジュール、対象企業との間にある関係性などを基準に、どのスキームを使うことで一番スムーズにM&Aを実施でき、かつメリットを最大限得られるかを熟慮する必要があります。

つまりスキームの選択は、失敗するリスクを軽減しつつ、スムーズなM&Aを実施する上で重要なプロセスと言えます。

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M&Aスキームの種類一覽

M&Aのスキーム

M&Aスキームには、上記のような種類があります。まず「狭義のM&A」と「広義のM&A(資本提携業務提携)」に大別されます。一般的なM&Aは「競技のM&A」のことをさし「買収」と「合併」という2種類に分けられます。
ここでは、M&Aスキームの各種類について、簡単に概要をご紹介します。

買収

買収とは、ある企業が他社の事業や会社を買う形でM&Aを実施するスキームです。買収は、さらに「株式取得・資本参加」と「事業譲渡・資産買収」の2種類に分けられます。

株式取得・資本参加

株式取得・資本参加とは、株式売買によって経営権の獲得や子会社化、増資などを実施するM&Aスキームの総称です。株式取得・資本参加に含まれるM&Aスキームには、「株式譲渡」、「株式交換」、「株式移転」、「第三者割当増資」の4種類があります。

株式譲渡

株式譲渡とは、売り手企業から株式を買収することで対象企業の経営権を獲得するM&Aスキームです。M&Aの契約締結に伴い株式を獲得し、対価として現金を支払うことで株式譲渡は完了します。あくまで株主(≒経営者)のみが変わるだけで、それ以外(権利や義務の関係など)に変化は生じないのが特徴です。

株式交換

株式交換とは、ある会社から発行済み株式のすべてを取得し、その対価として自社の発行済み株式を交付するM&Aスキームです。主に、完全子会社化を図るときに用いられるスキームです。

株式移転

株式移転とは、新しく設立した会社が、複数会社からすべての発行済み株式を取得し、対価として自社の発行済み株式を交付するM&Aスキームです。既存の会社が親会社となる株式移転とは違い、株式交換では新しく設立した会社が親会社となります。

第三者割当増資

第三者割当増資とは、新しく発行する株式を特定の第三者に交付するM&Aスキームです。主に対象となる第三者との関係性強化や業務上での提携、資金調達などを図りたい場合に用いられます。

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事業譲渡・資産買収

事業譲渡・資産買収とは、経営権(≒株式)ではなく、事業や資産の一部または全部を売買するM&Aスキームです。事業譲渡・資産買収に含まれるM&Aスキームは、「事業譲渡」、「吸収分割」、「新設分割」の3種類です。

事業譲渡

事業譲渡とは、売り手企業が持つ事業の一部またはすべてを買収し、対価として現金を支払うM&Aスキームです。引き継ぎたい資産や負債、各種契約などを一つ一つ指定して買収する形となる点が、事業譲渡の大きな特徴です。

吸収分割

吸収分割とは、ある企業から事業について有している権利義務の一部またはすべてを引き継ぎ、株式や金銭を対価として支払うM&Aスキームです。事業譲渡とは異なり、買収対象となる事業が有する権利や義務について、個別の移転手続きを経ずに引き継ぐ点が最大の特徴です。

新設分割

新設分割とは、新しく設立した会社が、既存の会社から事業について有している権利義務の一部またはすべてを引き継ぐM&Aスキームです。どの会社が事業を引き継ぐかの違いを除けば、吸収分割と基本的には同じスキームです。

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合併

合併とは、複数の会社を1つの会社に統合する形でM&Aを実施するスキームです。合併は、さらに「吸収合併」と「新設合併」の2種類に大別できます。

吸収合併

吸収合併とは、合併によって消滅する会社が有する権利義務のすべてを、合併により存続する会社が引き継ぐM&Aスキームです。大半の合併では、吸収合併のスキームが用いられていると言われています。

新設合併

新設合併とは、合併により消滅する会社が有する権利義務のすべてを、合併時に新しく設立する会社が引き継ぐM&Aスキームです。つまり、一度全ての会社が持つ法人格を消滅させ、新しい会社にすべて移転するわけです。

提携

提携とは、複数の会社が協力し合うことで、共通目的の達成を目指すM&Aスキームです。提携は、さらに「資本提携」と「業務提携」の2種類に分けられます。

資本提携

資本提携とは、お互いに相手企業の経営権を取得しない範囲で出資する形により、協力関係を構築するM&Aスキームです。

業務提携

業務提携とは、お互いの企業が経営の独立性を維持した状態で、協力しながら事業に取り組むM&Aスキームです。資本提携とは異なり、資本移動を一切伴わないのが特徴です。なお、資本と業務の双方で提携するスキームは「資本業務提携」と呼ばれます。

M&Aスキームごとの特徴・メリット・デメリット

M&Aスキームの種類によって、特徴やメリット、デメリットは大きく異なります。前述したとおり、スムーズにM&Aを成功させるには、各スキームについて詳しく知った上で、どの手法が自社にとって最適であるかを判断することが重要です。

この章では、M&Aスキームそれぞれの「特徴」、「メリット」、「デメリット」、「必要な手続き」、「税務」をくわしく解説します。

買収

M&Aの中でも買収は、主に技術や人材の獲得、事業の成長に必要な時間の短縮、多角化および海外進出などを目的に実施されます。ここでは、買収に含まれるM&Aスキームが、それぞれどのような特徴を持っているか確認しましょう。

株式取得・資本参加

株式取得・資本参加は、会社丸ごと買収したり、子会社化したりする目的で実施されるM&Aスキームです。

株式譲渡

株式譲渡とは、買い手が売り手から発行済み株式の譲渡を受けるスキームです。M&Aスキームにおける株式譲渡には、主に下記3つの特徴があります。

株式譲渡の特徴
  • 「相対取引」、「市場買付」、「公開買付」という3種類の手法がある
  • 株式(経営権)を引き継ぐ仕組みであるため、会社丸ごとの売買で用いられる
  • あくまで株主(≒経営陣)のみが変わるため、会社内の資産に変化はない
株式譲渡のメリット

株式譲渡では、下記5つのメリットを得られます。

※カッコ内は売り手、買い手のどちらにとってのメリット・デメリットかを表します。カッコがない場合は双方に共通したメリットを意味します(他のスキームも同様)。

  • 他のスキームよりも手続きが簡単であり、短い時間でM&Aを行える
  • 株式の取得により、権利や義務を包括的に承継できる(買い手)
  • 3分の2以上の株式を取得すれば、反対する株主をスクイーズアウトにより強制排除できる(買い手)
  • 株式の売却利益を獲得できる(売り手)
  • M&A後も独立性を維持しやすい(売り手)

一方で株式譲渡には、次に挙げた4つのデメリットがあります。

株式譲渡のデメリット
  • 不要な資産や簿外債務、偶発債務を引き継ぐリスクがある(買い手)
  • 対価として現金が必要(買い手)
  • 売り手の法人格がそのまま存続するため、シナジー効果を発揮しにくい(買い手)
  • 譲渡する株式数次第により経営権を失ってしまう(売り手)

株式譲渡をM&Aスキームとして活用する場合、主に下記の手続きが必要です。

株式譲渡の手続き
  • 株式譲渡の承認請求[1]
  • 取締役会または株主総会による株式譲渡の承認
  • 株式譲渡契約の締結
  • 代金の決済をはじめとしたクロージング
  • 株主名簿の書き換え
株式譲渡にかかる税金

株式譲渡によるM&Aでは、売り手企業に対して下記3種類の税金が課税されます。[2]

  • 所得税:譲渡所得に対して20%
  • 復興特別所得税:所得税の1%(0.315%)
  • 住民税:譲渡所得に対して5%

※ただし法人株主の場合は、所得税や住民税の代わりに法人税等が課税されます。

買い手に対しては、基本的に課税されません。ただし、税法に基づいて評価した株価でM&Aを実施しないと、買い手に対しても贈与税などの課税が生じ得るので注意しましょう。なお所得税や住民税が課税される譲渡所得は、M&Aによる総収入から取得費と譲渡費用を差し引いた金額です。

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株式交換

株式交換は、完全子会社となる会社の株式と完全親会社となる会社の株式を交換するスキームです。M&Aスキームにおける株式交換には、主に下記4つの特徴があります。

株式交換の特徴
  • すでに存在する会社が親会社となる
  • 対象企業の株式をすべて買い取り、対価として自社の株式を交付する
  • 上記の仕組みにより、売り手を完全子会社化する目的で用いられる
  • 現在は対価の柔軟化が認められており、金銭や社債を対価に用いることが可能(ただし追加で手続きを要する)
株式交換のメリット

株式交換を用いたM&Aでは、下記4つのメリットが買い手にもたらされます。

  • 現金を用意せずにM&Aを行える(買い手)
  • 子会社の資産や事業内容をそのまま引き継げる(買い手)
  • 買収した企業は別法人として残るため、急いで経営統合を行う必要がない(買い手)
  • 3分の2以上の賛成が得られれば、少数株主を排除した上で完全子会社化できる(買い手)
株式交換のデメリット

ただし株式交換にあたっては、下記4つのデメリットに注意しましょう。

  • 不要な資産や簿外債務などを引き継ぐ(買い手)
  • 新株発行により株価の下落が起きるかもしれない(買い手)
  • 非公開株式を対価として交付された場合、現金に換えにくい(売り手)
  • 買い手の業績次第で交付された株価が下落するかもしれない(売り手)
株式交換の手続き

株式交換をM&Aスキームとして活用する場合、主に下記の手続きが必要です。

  1. 株式交換の契約締結
  2. 事前開示書類の備置き(効力発生日から6ヶ月を経過する日まで継続する)[3]
  3. 債権者に対する公告および個別の催告(効力発生日の1ヶ月前まで。一定ケースのみ必要)[4]
  4. 株主総会の招集通知(株主総会開催日の2週間前まで。非公開会社の場合は1週間前まで)[5]
  5. 株主総会の特別決議(簡易・略式組織再編では不要)[6]
  6. 反対株主からの株式買取請求手続き(効力発生日の20日前まで)[7]
  7. 株式の取得および対価の交付
  8. 事後開示書類の備置き(効力発生日から6ヶ月を経過する日まで継続する)[8]
株式交換にかかる税金

なお税金については、税制適格か非適格かによって取り扱いが変わります。適格株式交換の場合には、子会社に対する課税は基本的に生じません。親会社に関しても、資本金等の増額により事業税などの税額が増えるケースを除いて、課税は発生しません。

一方で非適格株式交換では、子会社側の資産を時価評価する必要があり、含み損益が生じて法人税等が課税される可能性があります。また、対価に金銭が用いられた際には、譲渡益に対する課税義務が生じる場合もあります。

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株式移転

株式移転とは、完全子会社の株式と、新しく設立する完全親会社の株式を交換するスキームです。M&Aスキームとしての株式移転には、下記4つの特徴があります。

株式移転の特徴
  • 新しく設立する会社が親会社となる
  • 対象企業の株式をすべて買い取り、自社の株式を対価として交付する
  • 持株会社の設立や複数の企業が共同で持株会社を設立する場合に用いられる
  • 現在は対価の柔軟化が認められており、追加の手続きを行えば金銭や社債を対価にできる
株式移転のメリット・デメリット

株式移転のメリットとデメリットは、基本的に株式交換と同じです。強いて言うならば、持株会社の設立に利用できる点が、株式交換との違いかつメリットです。

株式移転の手続き

株式移転をM&Aスキームとして活用する場合、主に以下に挙げた手続きを行います。細かな違いはあるものの、基本的には株式交換と同じ流れで手続きを進めます。

  1. 株式移転の契約締結
  2. 株式移転計画の作成[9]
  3. 事前開示書類の備置き
  4. 債権者に対する公告および個別の催告
  5. 株主総会の招集通知
  6. 株主総会の特別決議(簡易・略式組織再編では不要)
  7. 反対株主からの株式買取請求手続き
  8. 事後開示書類の備置き
  9. 株式移転の登記
株式移転にかかる税金

なお税務上の取り扱いに関しても、株式交換と同様に税制適格か非適格かによって異なります。

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第三者割当増資

第三者割当増資とは、特定の第三者に対して新株を発行するスキームです。M&Aスキームとしての第三者割当増資には、以下に挙げた3つの特徴があります。

第三者割当増資の特徴
  • 既存株主に平等に株式を割り当てるのではなく、会社が指定した相手に割り当てる
  • 既存株主はそのまま株式を保有するので、新株を引き受ける者は100%の株式を獲得できない
  • 売り手は資金調達、買い手は相手企業に対する支配力の強化を目的に実施する
第三者割当増資のメリット

M&Aスキームとして第三者割当増資を実施する場合、下記4つのメリットを期待できます。

  • 基本的にはTOB規制の適用を受けずに利用できる(買い手)
  • 対象企業の経営に対する影響力を高めることが可能(買い手)
  • 返済不要の資金を調達できる(売り手)
  • 出資先との業務提携や資本提携がスムーズに進む(売り手)
第三者割当増資のデメリット

一方でこのスキームを利用するにあたっては、以下に挙げた4つのデメリットに注意を要します。

  • 経営陣の持ち株比率が低下し、経営に対する影響力が下がる(売り手)
  • 資本金の増額により課税額の増加リスクがある(売り手)
  • 既存株主が残るため、経営権を完全に掌握できない(買い手)
  • 一定の株式保有割合を獲得するのに、株式譲渡よりも多額の資金が必要となる(買い手)
第三者割当増資の手続き

第三者割当増資によるM&Aでは、主に以下の手続きが必要です。

  1. 取締役会による募集株式の発行決定

  2. 株主総会の招集通知

  3. 特別決議により、「募集株式の数」、「募集株式の払い込み金額および算定方法」、「金銭の払込期間」、「増加する資本金および資本準備金に関する事項」(募集事項)の決定[10]

  4. 募集の通知(株式会社の称号や募集事項、払込みの取扱い場所などを通知)[11]

  5. 引受けの申し込み(申し込み者の氏名や住所、引き受ける株式数を書面にて交付)

なお公開会社ならば、原則として取締役会決議により募集事項の決定を行えます。ただし「有利発行(時価に比べて特に安い価額で株式を発行すること)」に該当する場合には、公開会社でも特別決議が必要です。[12]

このスキームを用いたM&Aでは、有利発行かどうかに関係なく、株式の発行会社側には一切課税が発生しません。一方で引き受ける側には、有利発行により受贈益が生じたとみなされ、贈与税などの税金が課税されます。

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事業譲渡・資産買収

事業譲渡・資産買収は、一部の事業や資産だけ買収したいケースで活用されるM&Aスキームです。

事業譲渡

事業譲渡とは、一定である営業目的のために組織化された事業の一部またはすべてを売買するスキームです。M&Aスキームとしては、以下に挙げた3つの特徴があります。

事業譲渡の特徴
  • 単なる財産の売買だけでなく、製造や販売などに関するノウハウも付随して移転される
  • 会社に対して対価が支払われるため、買い手の株主は直接対価を得られない
  • 基本的には現金が対価として用いられる(ただし、株式の交付も認められている)
事業譲渡のメリット

このスキームを用いてM&Aを行うと、以下に挙げた3つのメリットを得られます。

  • 引き継ぐ資産を選べるので、不要な資産や簿外債務などを引き継がずに済む(買い手)
  • 不採算事業の売却や主力事業への集中を実現できる(売り手)
  • 経営権を引き続き持つことができる(売り手)
事業譲渡のデメリット

一方で、事業譲渡によるM&Aには下記4つのデメリットもあります。

  • 契約の移転手続きがあるため、M&Aに時間や手間がかかる
  • 雇用契約や資産の権利を個別に契約し直す必要がある(買い手)
  • 税務上の優遇措置がないため、不動産取得税や登録免許税の負担が重い(買い手)
  • 原則20年にわたって、同一市町村および隣接市町村において競業避止義務を負う(売り手)[13]
事業譲渡の手続き

事業譲渡を用いたM&Aでは、主に次の手続きが必要です。

  1. 事業譲渡契約の締結
  2. 株主総会の招集
  3. 株主総会の特別決議(「事業の全部譲渡」、「重要な一部の譲渡」、「全部譲受け」といったケースで必要)[14]
  4. 反対株主の買取請求
  5. 財産および契約上における地位の移転

なお重要な一部の譲渡とは、「事業譲渡により移転する資産の帳簿価額が、当該株式会社の総資産額において5分の1を超えないケース以外の事業譲渡」を意味します。

事業譲渡で売り手にかかる税金

事業譲渡によるM&Aでは、売り手と買い手で課税される税金が異なります。売り手の場合、このスキームを活用した場合の税金は次のとおりです。

  • 法人税等:譲渡益(売却金額−譲渡資産の簿価)に対して課税される
  • 消費税:買い手が負担した金額を納付する
事業譲渡で買い手にかかる税金

一方で買い手側は、下記の税金を支払う必要があります。

  • 消費税:課税資産(土地や有価証券、債権など以外)の10%
  • 登録免許税:土地と建物それぞれについて、固定資産税評価額の2%[15]
  • 不動産取得税:固定資産税評価額の4%(令和3年3月31日まで、住宅および土地は3%)[16]
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吸収分割

吸収分割とは、株式会社または合同会社が事業に対して保有する権利義務の一部または全てを分割し、それを他の会社に承継させるスキームです。[17]分割により事業を切り出す会社(売り手)は分割会社、分割された事業を引き継ぐ会社(買い手)は承継会社と呼びます。

吸収分割の特徴

M&A手法としての吸収分割には、下記4つの特徴があります。

  • 既存の会社が分割された事業を引き継ぐ
  • 「分割型分割(対価を分割会社の株主が受け取る手法)」と「分社型分割(対価を分割会社自身が受け取る手法)」の2種類がある
  • 承継会社は分割会社が切り離した権利義務を包括的に承継する
  • 選択と集中や事業承継の手段として用いられる
吸収分割のメリット

吸収分割を使ったM&Aでは、以下に挙げた4つのメリットを期待できます。

  • 株式を対価にできるため、現金を準備せずにM&Aを行える(買い手)
  • 各種の契約や権利を個別で承継する必要がない(買い手)
  • 分割された事業を自社に組み込めるので、シナジー効果を得やすい(買い手)
  • 切り離す事業を選べるため、選択と集中を実現できる(売り手)
吸収分割のデメリット

ただし、このM&Aスキームを使用するにあたっては、次のデメリットにも注意しなくてはいけません。

  • 売り手に対して株価を対価として用いた場合、株主構成が変化してしまう(買い手)
  • ITシステムや人事制度などの統合に多大な労力を要する(買い手)
  • 簿外債務を引き継ぐリスクがある(買い手)
  • 非公開会社の株式が対価である場合、株式の現金化が困難(売り手)
吸収分割の手続き

なお吸収分割によるM&Aでは、主に以下の手続きを経ます。

  1. 吸収分割契約の締結
  2. 事前開示書類の備置き
  3. 一定範囲内の労働者及び労働組合に対する通知
  4. 債権者への通知・公告
  5. 反対株主の買取請求手続き
  6. 株主総会の招集
  7. 株主総会の特別決議(簡易・略式組織再編では不要)
  8. 吸収分割の登記
  9. 事後開示書類の備置き
吸収分割に必要な通知

なお吸収分割を実施する旨の通知は、下記3つのケースに該当する労働者に行う必要があります。[18]

  • 承継される事業に主として従事する労働者
  • 吸収分割契約の中で、労働契約を承継する旨が定められている労働者
  • 転籍合意した労働者、承継会社に出向する労働者(改正承継法指針により追加されている)

株式交換・移転や後述する合併と同様に、税制適格の要件に該当するかどうかによって、税務の取り扱いは異なります。適格吸収分割の場合は、資産及び負債が帳簿価額により引き継ぎされたとみなされます。一方で非適格吸収分割の場合は、譲渡損益の発生により法人税等が課税されます。

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新設分割

新設分割とは、複数の会社が事業に関して保有する権利義務の一部または全てを、新しく設立する会社に引き継ぐM&Aスキームです。[19]

新設分割の特徴

M&Aの手法として用いる場合、新設分割には下記の特徴があります。

  • 新しく設立する会社が分割された事業を引き継ぐ
  • 「分割型分割(対価を売り手の株主が受け取るスキーム)」と「分社型分割(対価を売り手企業自身が受け取るスキーム)」の2種類が存在
  • 買い手は分権利義務をまとめて承継できる
  • 不採算事業の売却や主力事業への集中、事業承継の手段として活用される
新設分割のメリット・デメリット

新設分割のメリットとデメリット、税務上の取り扱いは、基本的に吸収分割と同じです。

新設分割の手続き

必要な手続きについても、新設分割計画の作成が必要である点を除いて、吸収分割とほとんど同じです。

  1. 新設分割計画の作成[20]
  2. 事前開示書類の備置き
  3. 一定範囲内の労働者及び労働組合に対する通知
  4. 債権者への通知・公告
  5. 反対株主の買取請求手続き
  6. 株主総会の招集
  7. 株主総会の特別決議(簡易・略式組織再編では不要)
  8. 新設分割の登記
  9. 事後開示書類の備置き
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合併

合併は、主にグループ企業が自社の経営再編により、経営の効率化やシナジーの獲得、内部統制の強化などを実現する目的で行います。ここでは、「吸収合併」と「新設合併」に分けて、それぞれの特徴やメリット・デメリットをお伝えします。

吸収合併

吸収合併とは、合併により消滅する会社が有する権利義務の全てを、存続する会社に承継するM&Aスキームです。[21]

吸収合併の特徴

M&Aスキームとしての吸収合併には、以下に挙げた特徴があります。

  • 権利義務を他社に引き継がせる側の会社は法人格が消滅する
  • 他社の経営資源獲得以外にも、グループ内再編を目的に行われることも多い
吸収合併のメリット

上記の特徴を有する吸収合併には、下記5つのメリットがあります。

  • 売り手と買い手の経営資源が一体化するので、シナジー効果を早期に実現できる(買い手)
  • 株式を対価に用いることで、資金を用意せずにM&Aを実施できる(買い手)
  • 消滅する会社の権利義務をすべて承継できる(買い手)
  • 市場シェアの拡大やコスト削減を実現できる(買い手)
  • 対等な立場でのM&Aを対外的に印象付けることが可能
吸収合併のデメリット

一方で吸収合併を利用するにあたっては、下記4つのデメリットに注意を要します。

  • 統合作業に多大な負担が生じる(買い手)
  • 合併比率次第では、既存株主の持ち分が希薄化してしまう(買い手)
  • 簿外債務や不要な資産を引き継ぐリスクがある(買い手)
  • 非公開企業の株式が対価である場合、現金化しにくい(売り手)
吸収合併の手続き

吸収合併によるM&Aは、主に次の手続きを経て実施します。

  1. 合併契約の締結
  2. 事前開示書類の備置き
  3. 債権者への通知・公告
  4. 反対株主の買取請求手続き
  5. 株主総会の招集
  6. 株主総会の特別決議(簡易・略式組織再編では不要)
  7. 合併の登記
  8. 事後開示書類の備置き
吸収合併にかかる税金

税務の取り扱いについては、適格吸収合併か非適格吸収合併かによって異なります。適格吸収合併の場合は、基本的に消滅する会社の繰越欠損金を引き継ぐことが認められます。一方で非適格合併では、資産を時価で引き継ぐため、譲渡益に対して課税が発生します。

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新設合併

新設合併とは、合併により消滅する会社が有する権利義務のすべてを、新しく設立する会社に引き継ぐM&Aスキームです。[22]

新設合併の特徴

M&Aスキームとしての新設合併には、下記の特徴があります。

  • 合併に携わる全企業の法人格が消滅する
  • 吸収合併と比べると手続きが煩雑であるため、実務ではあまり用いられていない

新設合併を他のM&Aスキームと比較した場合、下記3つのメリットがあります。

  • 株式を対価として利用可能(買い手)
  • 市場シェアの拡大やコスト削減などの効果を得られる(買い手)
  • 全企業の法人格が消滅するので、吸収合併よりもさらに平等なM&Aを実現できる
新設合併のデメリット

一方で新設合併には、以下5つのデメリットが存在します。

  • 経営統合に多大な時間や手間がかかる(買い手)
  • 合併比率によっては、既存株主の持ち分が希薄化する(買い手)
  • 不要な事業や簿外債務などを承継するリスクがある(買い手)
  • 新たに許認可を取得する必要がある
  • 新設会社は再び新規上場申請を行う必要がある

なお手続きや税務上の取り扱いに関して、許認可や上場申請手続き以外の点で吸収合併と大きな違いはありません。

M&A・事業承継
新設合併とは?吸収合併との違いやメリット、手続きを解説

新設合併とは、合併によって消滅した法人の権利や義務を新設の会社が承継する手法です。対等な立場での合併となる一方で、手続きの煩雑さといったデメリットもあります。この記事では新設合併のメリット・デメリット・吸収合併との違い、 […]

提携

提携は、経営権の独立性を維持しつつ、他の企業と協力関係を構築したいケースで実施します。ここでは、「資本提携」と「業務提携」に分けて、特徴やメリット、デメリットを確認しましょう。

資本提携

資本提携は、お互いの企業が経営権に大きな影響を与えない範囲で出資し合うことで、協力関係を築くM&Aスキームです。

資本提携の特徴

M&Aのスキームとして考えた場合、資本提携には下記の特徴があります。

  • 経営権の取得ではなく、お互いの協力により目標の達成を目指す
  • 株式の取得や出資を伴う
  • 買収や合併と比べると、企業間の結びつきは弱い
資本提携のメリット

他のM&Aスキームと比較して、資本提携には以下のメリットがあります。

  • 資金調達できる(売り手)
  • 出資先企業の株価上昇により利益を獲得できる(買い手)
  • お互いの関係性を高めることができる
  • 買収や合併と比べると手続きが簡単であり、リスクが低い
資本提携のデメリット

一方で資本提携には、下記のデメリットもあります。

  • 経営に過剰な介入を受けるリスクがある(売り手)
  • 予想外のタイミングで株式の買い取りを請求されるリスクがある(買い手)
資本提携の手続き

資本提携の実施に際しては、法律に明記された手続きはありません。一般的には、資本提携の契約書を締結する形で行います。資本提携の契約書には、主に以下の内容を記載します。

  1. 契約の目的
  2. 双方企業の名称や代表の氏名
  3. 出資に関する事項(取得する株式の数や価格、取得する手法など)
  4. 資金の使い道
  5. 業務上での提携事項
  6. 収益の分配や費用負担
  7. 提携期間
  8. 秘密保持の義務
資本提携にかかる税金

なお資本提携に際しては、株式の譲渡や取得に際して、所得税や法人税等が課税される可能性があります。

M&A・事業承継
資本提携とは?業務提携との違い、メリット、最新事例を解説

資本提携について、業務提携との明確な違いがわからいという方は多いのではないでしょうか。今回は資本提携と業務提携の違い、メリット・デメリットや具体的な手法、事例を図解で分かりやすく解説します。 目次資本提携とは?資本提携の […]

業務提携

業務提携とは、双方企業が特定の業務に対して協力関係を築くM&Aスキームです。

業務提携の特徴

他のM&Aスキームと比較すると、業務提携には以下3つの特徴があります。

  • お互いの企業が経営権の独立性を維持した状態で行われる
  • シナジー効果の獲得を目的に活用される
  • 製造、販売、技術開発など、業務提携の範囲は多岐にわたる
業務提携のメリット
  • 経営権を維持した状態で、他社との協力関係を構築できる
  • 他社の経営資源を活用し、大きな成長を目指せる
  • 資金がなくても提携できる

一方で、業務提携を実施するにあたっては、自社の機密情報(ノウハウや顧客情報など)が流出、もしくは悪用される恐れがあるので注意しましょう。こうした事態に備えて、漏洩を防ぐ取り決めや漏洩した場合の対応を契約書に明記するのが最善策です。

なお資本提携と同様に、業務提携でも必須となる手続きは存在しません。一般的には、提携目的や条件などを記した業務提携契約書を作成する形となります。税金に関しては、出資を伴わないため特に発生しません。

M&A・事業承継
業務提携とは?メリットや進め方、資本提携・M&Aとの違い

業務提携は他社の資源を活用して事業成長を図る施策のひとつです。同様の施策である資本提携・M&Aとの違いや、業務提携の種類、メリット・デメリット、進め方、契約方法、事例を解説します。(執筆者:京都大学文学部卒の企業 […]

[1]会社法第136条(e-Gov)
[2]No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税) (国税庁)
[3]会社法第782条(e-Gov)
[4]会社法第789条(e-Gov)
[5]会社法第299条(e-Gov)
[6]会社法第783条、第795条(e-Gov)
[7]会社法第785条、第797条(e-Gov)
[8]会社法第791条、第801条(e-Gov)
[9]会社法第772条(e-Gov)
[10]会社法第199条(e-Gov)
[11]会社法第203条(e-Gov)
[12]会社法第199条、第201条(e-Gov)
[13]会社法第21条(e-Gov)
[14]会社法第467条(e-Gov)
[15]No.7191 登録免許税の税額表(国税庁)
[16]不動産取得税に係る特例措置(国土交通省)
[17]会社法第2条29項(e-Gov)
[18]労働承継法第2条(厚生労働省)
[19]会社法第2条30項(e-Gov)
[20]会社法第762条(e-Gov)
[21]会社法第2条27項(e-Gov)
[22]会社法第2条28項(e-Gov)

M&A・事業承継
M&Aのメリット・デメリットを買い手・売り手ごとに徹底解説

M&Aをする最大のメリットは時間を買えることです。買い手は新規事業や既存事業の拡大にかかる時間を買えます。売り手は投資回収・現金化の時間を短くできます。今回はM&Aのメリット・デメリットを解説します。 目 […]

M&Aスキームごとの成功事例10選

実際に活用された事例を確認すれば、より一層M&Aスキームに対する理解を深めることができます。この章では、それぞれのM&Aスキームが実際に活用された事例を10つご紹介します。ご自身が活用を検討しているM&Aスキームがあれば、ぜひ事例を参考にしていただければと思います。

株式譲渡のM&A成功事例

最初に紹介する事例は、マネックスグループによるコインチェックの買収です。

2018年4月、大手証券会社であるマネックスは、株式譲渡により仮想通貨交換業を運営するコインチェックを完全子会社化しました。マネックス仮想通貨交換業への新規参入を図るために、同市場の先駆けであるコインチェックを買収したとのことです。

両社の株式譲渡は、36億円という買収価額により実施されました。この金額は、2018年3月末におけるコインチェック社の純資産額を基準に算定されたとのことです。[23]

このM&Aにより、マネックスグループは本格的に仮想通貨事業への新規参入を果たせました。一方でコインチェックも、2021年3月期第2四半期時点で、グループ入り後において四半期最高収益を記録するなど、順調に成長しています。[24]

M&A・事業承継
【2021年最新版】IT業界のM&A事例56選

IT業界における厳選した56例のM&Aについて、「2021年の最新事例」や「システム開発分野」などのジャンルに分けて解説します。 事例では売り手・買い手企業の特徴やM&Aの手法、売買価格を紹介します。(中 […]

株式交換のM&A成功事例

2012年3月、自動車大手の日産自動車は、連結子会社でありエンジンや変速機などの部品を手掛ける愛知機械工業との株式交換を実施しました。この株式交換により、愛知機械工業は日産自動車の完全子会社となりました。

両社の株式交換では、1:0.4という株式交換比率により、親会社である日産から子会社となる愛知機械工業に対して株式が割り当てられました。また日産自動車側では、簡易株式交換の形式で手続きが進められました。

なお今回のM&Aは、愛知機械工業の完全子会社化により、業務のクオリティ向上や成長の加速化、コスト競争力の強化を目的に実施されたとのことです。[25]

株式移転のM&A成功事例

2018年10月、仮想通貨交換業を営むbitFlyerは、新設した「bitFlyer Holdings」の完全子会社となる形で株式移転を実施しました。

この株式移転が実施された目的は、シンプルに「持株会社の設立」です。持株会社体制への移行を図ることで、各機能の責任と義務を明確化し、コーポレート・ガバナンスの強化とコンプライアンス体制の徹底を目指すとのことです。[26]

M&A・事業承継
金融業界のM&A・売却動向と事例【2021年最新版】

金融業界では、業界再編やIT技術の取得に向けてM&Aを行うケースが増えています。今回の記事では、2021年現在における金融業界の最新M&A動向・事例をわかりやすく解説します。(中小企業診断士 鈴木裕太 監 […]

第三者割当増資のM&A成功事例

2019年12月、大塚家具はヤマダ電機を引受先として第三者割当増資を実施しました。この第三者割当増資により、大塚家具はヤマダ電機の子会社となりました。

今回の第三者割当増資では、3,000万株が1株あたり145.8円の価額で発行・交付されました。したがって、大塚家具は合計で43億7,400万円の資金調達を果たしました。[27]

本件の第三者割当増資は、大塚家具とヤマダ電機による資本提携の一環として実施されました。資本提携に際して、大塚家具はITへの投資や商品開発、法人向け事業の強化、物流の効率化などに注力する予定でした。しかし同社の株価は当時162円であったうえに、資金繰りの状況が悪く借り入れによる資金調達も困難な状況でした。そこで大塚家具は、各種投資に必要な資金を調達する目的で、ヤマダ電機を対象に第三者割当増資を行った次第です。[28]

今回の第三者割当増資により、事業の運転資金やITへの投資などに必要な資金の調達に成功しました。したがって、結果的には資本提携の円滑化につながった点で、ヤマダ電気にもメリットがあったといえます。

M&A・事業承継
M&Aの投資手法や成功のコツ 投資ファンドのM&Aも徹底解説

M&Aは、シナジー効果の発揮など以外にも、投資(売却利益の獲得など)を目的として行われることもあります。この記事では、投資を目的としたM&Aの手法や成功させるポイントなどをわかりやすく解説します。(公認会 […]

事業譲渡のM&A成功事例

2017年11月、大手電機メーカーの東芝は医療法人社団緑野会に病院事業を譲渡しました。本件のM&Aでは、約275億円という価額で事業譲渡が行われました。[29]

東芝によると、緑野会は高度急性期から在宅復帰までの医療全般に幅広い実績と知見を有する医療法人とのことです。このような買い手に事業譲渡することで、地域のニーズに沿った医療を充実させつつ、地域医療により一層貢献できるとの結論に至ったことが、M&Aの決め手となったそうです。[30]

譲渡対象である東芝病院は、2015年〜2017年にかけて赤字となっていました。そのような事業を売却することで、東芝は不採算事業の売却による選択と集中を実現できたと考えられます。一方の緑野会は、本業である病院事業の規模をさらに拡大できたといえます。

M&A・事業承継
医療法人のM&A動向や事例、手法、メリットを徹底解説

後継者不足や医療費削減の動きを背景に、医療法人のM&Aが注目されています。医療法人同士のM&Aや営利企業による医療法人のM&Aについて、動向や手法、流れ、メリット、事例などをくわしく解説します。( […]

吸収分割のM&A成功事例

2020年10月、通信大手のソフトバンクはU-NEXTに対して、アニメ専門のコンテンツ配信サービス「アニメ放題」を吸収分割のスキームにより承継しました。本件のM&Aは、U-NEXTが2億5,000万円の金銭をソフトバンクに交付する形で実施されました。

ソフトバンクによると、経営効率化の一環としてアニメ放題の承継を実施したとのことです。アニメ作品に関する運営ノウハウを有していることが、U-NEXTを承継先として選ぶ決め手になったとのことです。[31]

売り手のソフトバンクは、事業の選択と集中を実現することで、目的通り経営の効率化を実現できたと考えられます。一方で買い手のU-NEXTは、持っている運営ノウハウを活かせる事業を買収したことで、さらなる業績の拡大を期待できるでしょう。

新設分割のM&A成功事例

2020年4月、小田急電鉄は「株式会社小田急SCディベロップメント」という会社を新設し、会社分割を実施しました。このM&Aでは、小田急電鉄からSCディベロップメントに対して商業施設運営事業に関する権利義務が承継されました。

簡易分割のスキームで実施された本件では、対価として発行した新設会社の1,000株が小田急電鉄側に交付されました。なお本件のM&Aは、商業施設運営事業の再編を目的に実施されました。[32]

吸収合併のM&A成功事例

2017年12月、印刷事業を主力ビジネスとする日本創発グループは、同じく印刷事業を営むグラフィックグループとの吸収合併を行いました。

両社の吸収合併では、1:6という合併比率により株式の割当が実施されました。日本創発グループの株価は市場株価平均法、グラフィックグループの株価はDCF法により算定されたとのことです。

なお本件のM&Aは、企画・デザインに関する優れたノウハウを持つグラフィックグループを取り込むことで、変化が激しい印刷市場への対応力を強化する目的で実施されました。[33]

新設合併のM&A成功事例

2010年4月、機械メーカーである富士ゼロックスは、分散している開発・生産機能を再編・統合を実施する目的で、新設合併のスキームを用いたM&Aを実施しました。具体的には、新しく2つの会社が新設され、次の形で組織再編が行われました。

まず1つ目は、開発系機能の統合です。「富士ゼロックスアドバンストテクノロジー」という会社が設立され、そこに富士ゼロックスエンジニアリングが吸収されるスキームでM&Aが行われました。

2つ目は、生産系機能の統合です。「富士ゼロックスマニュファクチュアリング」という会社が設立され、そこに富士ゼロックスイメージングマテリアルズ、鈴鹿富士ゼロックス、新潟富士ゼロックス製造という3社が吸収されるスキームでM&Aが行われました。[34]

M&A・事業承継
製造業のM&A・売却動向や最新事例、価格相場を徹底解説

製造業のM&Aは、主に大手企業への傘下入りやIT化を目的に行われます。今回の記事では、製造業のM&A動向や最新・有名事例、メリット、相場、成功させるポイントをわかりやすく解説します。(中小企業診断士 鈴木 […]

資本提携・業務提携のM&A成功事例

2019年5月、ECサイト大手の楽天と飲食店の情報サイト運営を行うぐるなびは、2018年7月より行っていた資本業務提携の強化に関する契約を締結しました。この資本業務提携の強化は、大きく下記3つの内容で構成されています。

まず1つ目は、業務提携の強化です。ネット予約市場の拡大に向けてさらなる協業強化が約束された上に、楽天の知見を活かした「ぐるなび」サイトの利便性向上やデータの相互活用などが決定しました。

2つ目は、資本提携の強化です。2018年7月の時点で、楽天はぐるなびの株式のうち9.60%(4,677,600株)を既に取得していました。今回の資本提携では、さらに追加で2,339,700株を相対取引のスキームで取得する旨が合意されました。

3つ目は、役員の派遣および経営体制の変更です。楽天からぐるなびに対して役員の派遣が行われると同時に、執行役員への権限移譲が実施されました。

2018年より実施していた資本業務提携により、ぐるなびは会員およびぐるなびネット予約件数の拡大ペースが加速する効果を得られているとのことです。一方で楽天は、外食領域で自社が取り組む「楽天経済圏」が広がった効果を実感したとのことです。[35]

今回の資本業務提携の強化により、両社が得られるシナジー効果はさらに大きくなると予想できるでしょう。

M&A・事業承継
EC業界におけるM&A・売却事例30選【図解で相場も解説】

EC業界では、市場拡大などの影響でM&Aが活発化しています。EC事業のM&Aでは、主力事業への集中などのメリットを得られます。EC事業のM&Aについて、成功させる方法や事例、相場をくわしく解説しま […]

[23]株式取得によるコインチェック株式会社の完全子会社化に関するお知らせ(マネックスグループ株式会社)
[24]2021年3月期 第2四半期決算説明資料(マネックスグループ)
[25]日産自動車株式会社による愛知機械工業株式会社の株式交換による完全子会社化について(日産自動車)
[26]持株会社「株式会社 bitFlyer Holdings」設立と株式移転のお知らせ(bitFlyer)
[27]株式会社大塚家具による第三者割当増資の引き受けの完了(子会社化)に関するお知らせ(ヤマダ電機)
[28]ヤマダ電機との資本提携契約の締結、第三者割当による新株式及び新株予約権の発行並びに主要株主、主要株主である筆頭株主及び親会社の異動に関するお知らせ(大塚家具)
[29]東芝病院事業の譲渡完了に関するお知らせ(東芝)
[30]東芝病院事業の譲渡に関する基本合意書締結について(東芝)
[31]会社分割(簡易吸収分割)に関するお知らせ(ソフトバンク)
[32]会社分割(簡易新設分割)による子会社設立に関するお知らせ(小田急電鉄)
[33]グラフィックグループ株式会社の株式取得及び吸収合併による日経印刷株式会社の完全子会社化に関するお知らせ(日本創発グループ)
[34]開発・生産機能を再編・統合開発、生産新会社を設立(富士ゼロックス)
[35]資本業務提携の強化に係る契約締結のお知らせ(ぐるなび)

M&A・事業承継
M&A成功事例40選 大企業・中小企業・業界別|2021年版

今回は大企業・中小企業別、業界別に厳選したM&A事例40選を紹介します。国内・海外の大企業事例から中小企業事例まで、譲渡・譲り受け企業の概要、M&Aの目的・M&A手法、成約に至るまでを解説します。 […]

M&Aスキームのまとめ

今回ご紹介したとおり、M&Aスキームの種類によってメリットやデメリット、必要な手続き、税務などは異なります。スキームごとの違いを知らないと、目標の達成が困難となったり、思わぬ損失を被ったりするリスクがあります。

上記のリスクを少しでも軽減するためにも、それぞれの違いをしっかり踏まえた上でM&Aスキームを選ぶようにしましょう。

M&A・事業承継
M&Aの方法一覧 分類や各手法のメリット、税金を徹底解説

M&Aの方法は、買収、合併、提携の3種類に大別できます。また、各方法は株式譲渡や事業譲渡などの手法に細分化されます。M&Aの代表的な方法について、特徴やメリット・デメリット、税制をくわしく解説します。(公 […]

(執筆者:中小企業診断士 鈴木 裕太 横浜国立大学卒業。大学在学中に経営コンサルタントの国家資格である中小企業診断士資格を取得(休止中)。現在は、上場企業が運営するWebメディアでのコンテンツマーケティングや、M&Aやマーケティング分野の記事執筆を手がけている)