中小企業M&Aの流れ・注意点を分かりやすく解説【成功事例付】

中小企業の友好的なM&Aは近年急増しています。組織の成長や資金調達がスピーディに行えるためです。今回は中小企業M&Aのメリット・目的・手法・ 注意点・税金・成功事例まで分かりやすく解説します。

目次
  1. 中小企業M&Aとは?
  2. 中小企業M&Aの目的
  3. 中小企業M&Aの3つのスキーム・手法
  4. 売り手から見た中小企業M&Aの手続き・流れ
  5. 中小企業の売却価格の算出方法 
  6. 中小企業M&Aの成功のポイント
  7. 中小企業M&Aの課題・注意点
  8. 中小企業M&Aの成功事例
  9. 中小企業M&Aの支援機関・連絡先

中小企業M&Aとは?

中小企業の定義

中小企業基本法を参照すると、法的な中小企業の定義は資本金および従業員数で決められます。定義の適用範囲は業種によって異なり、一例は以下の通りです。

  • 製造業その他…資本金もしくは出資金3億円以上又は従業員300人以下
  • 卸売業…資本金もしくは出資金1億円以下又は従業員100人以下
  • 小売業…資本金もしくは出資金5千万円以下又は従業員50人以下
  • サービス業…資本金もしくは出資金5千万円以下又は従業員50人以下

中小企業庁によると[1]、これはあくまでも原則に過ぎず、中小企業の定義は法令や制度により変化するとのことです。

法人税法においては、中小企業軽減税率は資本1億円以下の企業に適用されます。

中小企業M&Aの現状

中小企業庁M&Aの市場規模は年々拡大しており、2018年の時点で市場規模20兆円を超え、今後は30兆円規模にまで成長すると言われています。[2]

2020年3月31日には、経済産業省・中小企業庁により「中小M&Aガイドライン」も策定されました。[3]

このガイドラインでは、未だ外部の人間がM&Aを行うことによる事業継承に対して抵抗感を示す企業も多い現状を踏まえ、以下のような内容が記載されています。

  • M&Aの基本事項や料金の目安
  • M&A事業者に対する国による具体的な行動指針の提示

 

[1]中小企業庁
[2]マールオンライン
[3]経済産業省

中小企業M&Aの目的

事業承継を通じて後継者を探すためのM&A

近年、経営者の高齢化問題などから後継者不足に悩まされている中小企業は非常に多く存在します。そのため、中小企業M&Aの目的も事業継承による後継者問題の解消であることがほとんどです。

仮に後継者となる人物が見つかっている場合でも、株式の承継・各種手続き・税負担などで事業継承を断念するケースも存在します。

そのため、会社の事業を存続させるための手段としてのM&Aは、中小企業の経営者にとって「手元に売却金が残る」「買い手に安心して会社を任せられる」などの魅力があるのです。

新規事業や規模の拡大など成長戦略を目的としたM&A

売り手ではなく買い手として中小企業M&Aを行う場合、自社の事業規模を拡大させる目的で行うケースもあります。事業拡大の目的でM&Aを実施して得られるメリットとしては、以下のようなものがあります。

  • 自社にはない技術の獲得
  • 優秀な人材の確保
  • 事業の多角化
  • 海外進出

上記以外にも、ライバル企業を買収することで市場における自社のシェアを間接的に広げることもできます。

事業、会社の現金化(資金調達)のためのM&A

不採算の事業を抱えているが、資金調達の目処さえ立てば黒字化できるといったケースの場合も、M&Aによって事業または会社を売却して資金調達をすることも検討できます。

自社にとってはマイナス収支を生む赤字事業であっても、他社からすると魅力的な事業である可能性も存在します。買い手が見つかれば手元に売却金が残り、自社の他の事業に充てることも可能です。

中小企業M&Aの3つのスキーム・手法

100%株式譲渡

そもそも株式譲渡とは、売り手企業が発行済みの株式を買い手企業が買い取ることで、経営権を取得する方法です。株式譲渡には、以下の3つの手法があります。

  • 相対取引:大株主から直接株式を買い取る方法
  • 市場買付:上場企業の株式を証券取引所などで買い入れる方法
  • 購買買付(TOB):不特定多数の株主から株式買付の募集をし、市場外で株式を買い集める方法

 

100%株式譲渡のメリット

中小企業M&Aの場合、前述の事業継承目的でM&Aが行われるケースも非常に多くあります。そして、株式譲渡のスキームを選択すすると、売り手や株主側の利益を最大化することが可能となることがメリットとなります。

節税の観点から見ても、株式譲渡による対価は分離課税により約8割が売り手の手元に入り、各人の所得に合算され累進課税の対象とならないことがメリットになります。これが後述する事業譲渡や会社分割の手法を採れば、株式の譲渡対価は売り手の会社側に入ってしまいます。

また、買い手側から見ても100%の株式を所有できれば、M&A成立後に少数株主や反対株主を抱え込まなくて済点がメリットです。大企業とは異なり、中小企業の株主間で密接な人間関係が形成されている場合もあるので、買収後のトラブルを防ぐためにも全ての株を抱えることは大切な要素です。

総じて、100%株式譲渡のスキームを選択すれば「手続きの簡便さ」「利害関係の調整の容易さ」から、売り手と買い手の双方にとって、プラスとなる要素も多く存在します。

100%株式譲渡のデメリット

前述のように、メリットの多い100%株式譲渡のスキームですが「対象会社の帳簿外の負債や株に関する問題もそのまま継承してしまう」とのデメリットも存在します。

それが金銭で見積もり可能な問題である場合、M&Aの対価から差し引くことで対処することが可能です。

もし金銭に換算できない問題が発覚した場合は、後述する100%株式譲渡以外のスキームを検討することになります。

事業譲渡及び会社分割

「事業譲渡」「会社分割」の両者は、法的には全く異なるスキームですが、中小企業M&Aにおいては前述の100%株式譲渡の次の候補として同列に扱われます。

事業譲渡の特徴

事業譲渡は、一定の目的のために組織化された会社の財産の一部または全てを他の会社

に譲渡するスキームで、専門的には「特定承継」とも呼称されます。

事業譲渡は1ヶ月以上の債権者保護手続きや登記手続きが不要であるため、移転する契約数や従業員の人数が少ない場合にえらばれるケースが多くあります。

事業譲渡のメリット・デメリットとしては、以下のようになります。

事業譲渡のメリット
  • 買い手企業は必要な資産や負債のみを選んで買収できる
  • 簿外債務まで引き継ぐリスクがない
事業譲渡のデメリット
  • 契約上の移転手続きに手間と時間が必要
  • 税務上の優遇措置がなく、税負担が重い

会社分割の特徴

会社分割のスキームには、対象会社が自社の事業を新たに設立した会社に承継する「新設分割」と、事業の権利の全てもしくは一部のみを他社に承継する「吸収分割」があります。

これに加え、分割の対価を当該会社の株主が受け取る「分割型分割」、分割の対価を対象会社が受け取る「分社型分割」の2種類の対価の配分方法があるスキームです。

会社分割のスキームは、事業譲渡と違い1ヶ月以上の債権者保護手続きと登記手続きが必要です。事業譲渡では契約の数が多く、個々の承諾や巻き直しを行うと作業量が膨大になってしまう場合に選択され易くなっています。

会社分割のメリット・デメリットとして、次のような物が挙げられます。

会社分割のメリット

  • 買い手企業は新株の発行を対価とすれば、買収資金が不要
  • 包括承継のため、事業譲渡に比べ手続きがシンプル
  • 移籍させる従業員から個別の承認を得る必要がない
  • 買い手企業は経営統合をスムーズに行えるため、買収の恩恵を早期に得やすい

会社分割のデメリット

  • 買い手企業が上場企業の場合、1株あたりの利益が下がり株価下落リスクが発生する恐れがある
  • 売り手企業の株主が買い手企業の株主になり、株主構成が変化してしまう
  • 人事制度やシステム統合により、現場が混乱する恐れがある

株式交換・株式移転

株式交換とは、完全子会社(100%子会社)となる企業の株式を、完全親会社となる株式と交換するスキームで、対象企業を子会社化する目的で行われます。

最終的に買い手が対象企業の株を全て所有する点では100%株式譲渡と同じですが、株式交換は組織再編を行う必要があるため、全体のフローが煩雑かつ長期間に渡ります。

株式移転とは、完全子会社となる企業の株式を、新たに設立する会社の株式と交換し、持ち株会社を設立するために用いられるスキームです。

中小企業M&Aで株式交換・株式移転を選択するメリット・デメリットとしては、次の通りです。

株式交換・株式移転のメリット
  • 売り手企業の株主の3分の2以上の合意のもと、100%の株を取得可能
  • 親会社の株式が対価の場合は資金調達が不要
  • M&A後も売り手企業は別法人扱いのため、経営統合を急ぐ必要がない
株式交換・株式移転のデメリット
  • 手続きが複雑で、登記が必要なケースもある
  • 費用や時間もかかる
  • 買い手企業が上場企業の場合、株価下落のリスクがある
  • 買い手企業の株主構成が変化してしまう

売り手から見た中小企業M&Aの手続き・流れ

ソーシング&マッチング

M&A目的の明確化・スキームの策定

売り手企業はM&Aで売却先の企業を選定する前に、自社内でM&Aを行う目的の明確化や意思決定を行う必要があります。自社の課題や今後の事業プランなどについて具体的に策定し「M&Aを行う必要があるのか否か」について、社内で意思をまとめます。

その後、M&Aの具体的なスキームを策定することになりますが、自社にM&Aのノウハウがない場合は外部のM&A専門家に相談することになります。

M&A成立まで外部の専門家にアドバイスを求める場合、以下の契約を結ぶ必要があります。

  • アドバイザリー契約
  • 秘密保持契約

M&A対象企業の決定と打診

M&Aを行なっていく意思が固まった場合、次のステップとして売却先の企業を選定することになります。この際、M&A仲介会社から提供されるノンネーム資料を元に買い手となる企業を探していきます。

ノンネーム資料に記載されているのは「業種」「事業規模」「エリア」「買収を希望する理由」などで、具体的な企業名はこの時点ではわかりません。

資料内に記載されている情報をもとに、売却する企業を絞ったら、秘密保持契約を結んだ上で具体的な情報開示を行います。

この際、買い手企業側は対象企業の「登記簿謄本」「定款」などを取得し、企業情報について確認作業を行う流れが一般的ですので、売り手側は事前に用意をしておきましょう。

また、企業同士のマッチングの手段として、M&Aプラットフォームに登録する手段があります。M&Aプラットフォームを利用するメリットとしては、費用の安さが挙げられます。

例えば、弊社ビズリーチサクシードが運営しているプラットフォームは、システム効率化に成功しているため「売り手企業様は手数料無料」「買い手企業様は制約時手数料1.5〜2%」で利用いただけます。

M&A仲介会社に依頼した場合「着手金で100万円以上」「成約時に10〜20%ほどの手数料」がかかりますので、その分の費用を抑えることが可能です。

「M&Aプラットフォーム」のサービス内容を詳しく見る

基本合意

トップ会談・条件交渉

本格的な契約を行う前に、買い手企業と売り手企業双方のトップが面談を行い、M&Aの実行に向けて会談を行います。

この際にM&Aを行う目的やお互いの企業に関する情報交換を行い、齟齬が生じなければ具体的な交渉に入っていきます。

基本合意契約の締結

M&Aにおける基本合意とは、後述する買収監査の実施前に、M&Aの当事者同士でその時点までに合意している内容を定める契約のことです。

基本合意においては、主に以下の内容を定めることになります。

 

  • M&Aスキームの概要
  • 譲渡価格の概算
  • 全体のスケジュール
  • 買収監査の実施や役員の処遇
  • 保証債務の解消
  • 独占交渉権の付与
  • 秘密保護義務の設定
  • 一般条項

 

基本合意では「独占交渉権の付与」「秘密保持義務の設定」を行う関係上、原則として省略することができません。

デューデリジェンス(買収監査)の実施

デューデリジェンス(買収監査)とは、基本合意締結後に買い手企業が売り手となる中小企業の実態を把握するために行う調査のことです。

デューデリジェンスでは、外部のM&A専門家が派遣され、売り手企業の設立時にまで遡って資料の確認をします。

前述ように、中小企業においては株の持ち主が不明瞭なケースもありますので、その際は株主追跡のために「株券」「原始定款」「各種議事録」などの提出が必要になります。

デューデリジェンスが無事終了すると、最終合意に向けて、役員の処遇や今後のスケジュールについて詳細な内容を決定します。

クロージング

最終契約締結・クロージング

最終的な売却条件が決まり、契約内容にお互い相違がなければ最終契約書を締結します。この際、決済までに売り手側に要求される事項は「誓約事項(譲渡日までに行う必要がある事柄)」、決済に関する取り決めは「クロージング条件」として分けられます。

中小企業M&Aの最終契約は譲渡日以後の解除はできず、どうしても契約を解除したい場合は損害賠償か補償などの金銭的な手段に限られます。

最終契約内容にお互い合意しクロージング手続きを行うことになり「買い手企業から売り手企業に譲渡金が支払い」「売り手企業経営者の私的資産の買い取り」「株券や会社代表印の引き渡し」などを行います。

経営統合(PMI)の実施 

買収後の経営統合の作業に関してはPMI(PostMergerIntegration)と呼ばれます。買い手企業にとってM&Aの目的は、買収成立後の経営能力の向上にあるケースがほとんどです。そのため、PMIはM&Aのプロセスにおいても極めて重要な要素となります。

通常PMIはクロージングの前から始めることが多く、大まかに分けて以下のような流れを取ります。

  • 統合方針の決定
  • ランディング・プランの策定
  • 100日プランの策定
  • 統合実施効果検証

PMIの初期段階においては対象企業をどのようなスキームで統合していくかを検討し、クロージング後数ヶ月以内に行うべき統合作業をまとめた「ランディング・プラン」を作成します。

その後、クロージングから100日の間に行う対象企業の中期事業計画「100日プラン」を策定し、それに沿った形で統合実施、効果を検証していきます。

中小企業の売却価格の算出方法 

コストアプローチ

コストアプローチと評価対象会社の順子さんから売却価格を算出する方法で、「貸借対照表に記載されている資産」「負債の時価」などから企業価値を算出します。

コストアプローチの評価方法としては以下の2パターンです。

  • 時価純資産法…企業が保有する資産の時価から、負債の時価を差し引いて価値を評価する方法
  • 簿価純資産法…貸借対照表に記載されている純資産資産を評価する方法

貸借対照表に記載されている企業の情報は、過去から現在にかけての収益の情報しかないため、将来どの程度の収益を上げられる企業なのかについてはわからず、単独では企業の判断材料にはなりません。

そのため、コストアプローチによる企業評価の算出では時価純資産法が用いられることが多くあります。

インカムアプローチ

インカムアプローチとは対象企業の収益力をベースに評価する方法で、DCF(ディスカウンティッド・キャッシュフロー)と呼ばれる評価方法を用いるのが一般的です。

DCF法とは、評価対象となる企業が将来獲得すると予想されるキャッシュフローから、各種リスクを織り込んだ現在価値で差し引いて株価を算定する方法です。

DCF法による評価は、対象企業のキャッシュフロー計画に基づいたシミュレーションから柔軟な評価ができる反面、主観的な予測も多く混じってしまいます。そのため、交渉材料として用いる際には、合理的な論理展開を意識する必要があります。

その他に、インカムアプローチで用いられる企業価値の評価方法については、以下の通りです。

  • モンテカルロDCF法…モンテカルロシミュレーションを使い、不確定要素も盛り込んだ予測を行うDCF法
  • APV法…キャッシュフローの現在価値に割引率や資本構成の変化など織り込んで、企業価値を評価する方法
  • 配当割引モデル…将来的な一株ごとの予想配当金から予想費用を差し引いた利益をもとに、割引率を算出して現在の企業価値を評価する方法

マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは株式市場での市場価格をベースに企業価値を評価する方法です。

評価対象が上場企業であれば、そのまま対象会社の市場株価をベースに価値を算出できるのですが、中小企業ですと類似の上々企業の市場株価を参考にしなければなりません。

そのため、中小企業M&Aにおいて、用いることができるマーケットアプローチの企業価値評価方法は、以下の通りです。

  • 類似会社比較法…類似上々企業の株価倍率をもとに企業価値算定する方法
  • 類似取引比較法…過去の類似したM&Aの取引価格をもとに企業価値を算出する方法

中小企業M&Aの成功のポイント

M&Aを行う理由が明確である

事業継承や事業拡大など、M&Aを実施するにあたってその目的を明確に把握しておく必要があります。例えば事業継承一つとっても、M&A以外にも親族や社内役員などへの承継の可能性も検討できます。

M&Aを行う目的が不明瞭だと、取引相手の企業を選ぶ基準も明確化されませんので、最初からM&Aを前提として計画を立てるのではなく、他の方法とも比較検討した上でするようにしましょう。

売り手企業の関係者に与える影響を考慮する

中小企業M&Aにおいても、買収を行うことで対象企業の「従業員」「顧客」「既存の取引先」などに大きな影響を及ぼします。

M&Aは身売り行為であるとのイメージを持っている人も中には存在しますので、PMI後も滞りなく新体制で経営を行っていくために、今まで対象企業に関わっていた人たちへの説明責任も果たすようにしましょう。

株主を確認しておく 

冒頭でもご説明した通り中小企業においては株主名簿が存在しなかったり、株主の所在がはっきりしないケースも多々あります。

M&Aのスキームとして株式譲渡選択した場合、書いて企業は株式に対して対価を支払うことになります。そのため株主が誰であるのかをしっかりと把握しておかなければ、全く関係ない第三者に多額の支払いをしてしまう可能性もあります。

また、株主名簿が作成されていたとしても、そこに記載されている株式譲渡が株主の承諾を得ているものかどうかも不明なケースも存在します。

そのため、株式名簿があったとしても、買収監査の際にその他の資料と照らし合わせて矛盾がないかどうかを判別する必要があるのです。

社内外でのM&Aに強い人材を見つけておく 

買い手企業がM&Aを行う場合、社内で少数精鋭のチームを結成することになります。M&Aは秘匿性の高い案件であるため少数精鋭で挑むのが好ましく、「経営企画」「M&A」「事業企画」「財務」「法務部門」の各担当者からメンバーを選びます。

これに加え、M&Aでは専門的な知識も要求されるため、社外の専門家も招くことは前述の通りです。

車内でM&Aの専門チームがない場合はプロジェクトごとにメンバーを集めなければなりませんので、普段から社内外でM&Aに適している人材の目星をつけておきましょう。

買い手側は買収価格の上限と下限を決める 

M&Aにおける重要な争点の一つとして買収価格があります。買い手企業は企業買収にあたって、対象企業の価値算定をしますが。その際に買収価格の上限と下限を設定しましょう。

この場合上限価格を買い手企業の留保価格、下限価格が売り手企業に対して最初に提示するアンカリングとなります。

上限価格を決める際には、対象企業の時価にPMI後えられる自社の収益を足した値段で、下限価格は対象企業の現時点での清算価値です。

M&Aの交渉では最初に下限価格を提示し、それが売り手企業の想定した価格に近いものであれば、その後の交渉を有利に進めることができます。この際にその価格を算定した根拠もプラスで売り手企業に提示できると、さらに説得力が増します。

中小企業M&Aの課題・注意点

大企業などに行うM&Aと異なり、中小企業M&Aの場合は企業側のシステムも未完成であり、資料などが揃っていないケースも考えられます。

中小企業M&Aが抱える問題として、以下のような事柄が挙げられます。

  • 株式に関する問題
  • 監査資料収集に関する問題
  • コンプライアンスの問題

株式に関する問題

上場企業の場合ですと、株式は市場で自由に売買することが可能です。これに対し、中小企業となると、株式に譲渡制限が課せられた「譲渡制限会社」であるケースが多くなります。

譲渡制限が付与された株式を譲渡するには、定款により定められた譲渡承認機関の承認が必要です。

中小企業の株は、元から売買を予定しておらず、上場企業のように下部の管理に証券取引所や証券会社が介入しない株主の個人管理であることも相まって、紛失率も高くなります。

それ以外にも「そもそも株券がまだ発行されていない」「株の相続が発生した後に相続人が未上場株の存在を知らず、行方がわからなくなっている」などのケースもあります。

中小企業M&Aにおいて、このような株式に関する問題が多々発生した場合、以下のような対処方法があります。

株券に関する問題が発生した場合の対処法

  • 株券喪失の手続き→株券の再発行

中小企業が株券を喪失したケースでは、株券発行会社に請求することで、株券喪失登録簿へ株券紛失を登録することができます。その後、株式名義人に登録を行い、株券喪失の登録日から1年経つと、株券の再発行が可能になります。

  • 株券不所持の申し出

まだ株券が発行されていないケースの場合、株主が対象会社に対し「株式に係る株券の所持を希望しない」との旨を申し出ることで対処できます。

  • 株券不発行会社への移行

「株券を喪失している」「株券を発行していない」パターン両方で可能な対応策が、対象会社の「株券不発行会社」への移行です。ただし、株券をすでに発行してしまっている場合は、株券不発行会社へ移行するまで、2〜3週間の手続き期間が必要となります。

監査資料収集に関する問題

前述のように、中小企業では基本的な資料が揃わない場合もあります。また、資料以外にも収集が困難な物は存在し、主に次のような物が考えられます。

  • 基礎資料
  • 対象会社の定款
  • 株主名簿取引基本契約書
  • 各種議事録
  • 賃貸契約書

中小企業にM&Aを行う以上、上記いずれかの資料が揃わないことは仕方がないと割り切ることも必要です。

その場合は、事前に「契約書を作成することは可能なのか」「見つからない資料に記載された内容を他の資料補足することは可能なのか」などについて、検討するようにしましょう。

コンプライアンスの問題

中小企業はコンプライアンス面においても、大企業よりもある程度“ゆるい”ものであると覚悟しておくことが大切です。

一例を挙げると、株式会社には義務つけられている定時株主総会終結後の決算公告を行なっていない中小企業は多く存在します。

その場合、M&Aでは会社分割や組織再編の工程でスケジュールに歪みが生じる可能性も大きくなります。そういった事柄は「中小企業ではよくあること」として、許容できるだけのリスクか否か、事前に想定しておく必要があると言えるでしょう。

中小企業M&Aの成功事例

運輸会社の総合物流グループへのM&A成約

■譲渡企業(売り手):日伸運輸株式会社
資本金:1,000万円
従業員:15名
■譲受企業(買い手):東亜物流株式会社
資本金:1億円
従業員:376名

東京都で運送業を営む日伸運輸株式会社が、東京事業引継ぎ支援センターを通じて東亜物流株式会社へM&Aを打診[4]。売り手企業の無借金経営が決め手となり、無事成約となりました。

新潟の金属加工の製作所が地元企業と友好的M&A成約

■譲渡企業(売り手):株式会社阿部製作所
資本金:1,000万円
従業員:31名
■譲受企業(買い手):株式会社アベキン
資本金:5,000万円
従業員:70名

金属加工の歴史を持つ新潟県燕三条にある株式会社阿部製作所が、地元の協栄信用組合を通じて同じ地域の株式会社アベキンにM&Aによる事業承継を相談[5]。もともと、地域でのコミュニティが形成されていたこともあり、友好的にM&Aが成立しました。

事業シナジーを生む金属加工プレスメーカー同士のM&A成約

■譲渡企業(売り手):アポロ工業株式会社
■譲受企業(買い手):有限会社新栄工業

千葉県で金属加工メーカーを営む、中村新一様。今後の事業拡大のためにM&Aを検討し、ビズリーチサクシードに登録したところ、同業のアポロ工業株式会社様に巡り合いました。アポロ工業様の代表はちょうど引退を考えていたこともあり、同業者同士でシナジーを生み出すM&Aが成立しました。

金属加工プレスメーカー同士のM&A成約」の事例を詳しく見る

IT企業のWeb関連会社へのM&A成約

■譲渡企業(売り手):株式会社Choisee
■譲受企業(買い手):Web関連会社

宮城県仙台市に拠点を置く、株式会社Choisee様。ガジェット・IT系ツールのレビューを行う事業を1人で経営されている代表取締役・川原遼太郎様は、新規事業の準備金のためにM&Aを決断。大阪のWeb関連会社へのM&A交渉を、全てリモートで完結させ成約に至りました。

「IT企業のWeb関連会社へのM&A成約」の事例を詳しく見る

美容室経営の会社が異業種の東証一部上場企業へM&A成約

■譲渡企業(売り手):株式会社イーエス・ウォーターネット
■譲受企業(買い手):東証一部上場企業

都内で3店舗の美容院を経営する株式会社イーエス・ウォーターネットの取締役・坂本勇治様は、父親から「事業承継」を打診されたことで会社を手放すことを決意。「安心できる企業に譲渡したい」との思いから、東証一部上場企業へのM&Aを成功させました。

→「美容室経営の会社が異業種の東証一部上場企業へM&A成約」を詳しく見る

 

[4]社長の思いを次代で繋ぐ!事業承継事例集
[5]私の事業承継

中小企業M&Aの支援機関・連絡先

事業引継ぎ支援センター

事業引継ぎセンターとは、中小企業M&Aを支援するために平成23年に設置された国の機関です。令和2年の時点で47都道府県全てに設置され[7]、M&Aだけでなく従業員承継などを含めた事業承継に関する幅広い相談を受け付けています。

事業引継ぎセンターは、経済産業省の委託を受けた各都道府県の商工会議所や各都道府県の財団などが運営する事業で、地元金融機関のOBや各士業専門家が常駐しています。

事業引継ぎセンターで受けることができるM&A支援は、以下の通りです。

  • M&Aにおける初期相談対応
  • M&A支援を行う登録機関への橋渡し
  • センターによるM&A支援

金融機関(地銀・信金、日本政策金融公庫)

金融機関がM&A支援を行う場合貸付を行っている顧客に対して実施することが多く、与信業務などの固有業務にプラスして、M&Aに関する助言も行います。

中小企業M&Aの場合は、M&Aを検討している企業のマッチング企業を探したり、自らの顧客の中から候補を絞ることができるのが金融機関の特徴です。

しかし「都市銀行」「地域銀行」「信用金庫」の業態や規模などによって、M&Aに対する体制の整え方が異なります。

金融機関で受けることができるM&A支援の内容は以下の通りです。

  • 営業面に関する相談受付による中小企業の課題の「見える化」支援
  • 中小企業M&A実行支援
  • 融資などの中小企業M&A実行囲碁に関する支援

商工団体

「商工会議所」「商工会」「中小企業団体」「中央会商店街振興組合連合会」などの商工団体が」地域の発展のために中小企業M&A支援を行うこともあります。

地域に根ざしているという特性上」中小企業からしても身近な相談窓口の一つであり、中小企業が受けることができる公的な支援制度についてもよく熟知しています。

商工団体では、法務や税務といったリーガルな相談よりは、経営に関する相談を受けることが多くあります。そのため、地域の中小企業の経営状況などや地域での立ち位置などを認識できる立場にあると言えます。

商工団体で受けることができるM&A支援については、以下の通りです。

  • 営業面に関する相談受付による中小企業の課題の「見える化」支援
  • M&A支援を行う登録機関への橋渡し

士業専門家(弁護士、税理士、公認会計士)

弁護士

弁護士が中小企業M&Aに介入する場合、法律の専門家の立場から、M&Aにおける様々な要因に対して相談受付や対応を行っていくことになります。また、売り手企業の株主は経営者の親族などの利害関係に配慮し、紛争予防の観点から各人と調整役として交渉を行うことがあります。

中小企業M&Aで弁護士が行うことになる支援内容としては以下の通りです。

  • 株式事業用資産などの整理・集約支援
  • 契約書などの作成およびリーガルチェック
  • 中小企業M&Aに付随する経営者保証解除などの支援
  • 法務デュー・ディリジェンス
  • 債務超過企業に対する中小企業M&A支援

税理士

税理士は中小企業の経営者の相談役として企業の実情を把握し、税務会計に関する業務に精通していることから、中小企業M&Aでも経営支援や金融支援などの立場から関わることがあります。

中小企業M&Aで関わることになる税理士、は企業の顧問税理士であるケースが一般的です。ただし、M&Aに関する支援業務が通常の顧問業務の範囲外である場合、事前に報酬や業務内容についてすり合わせをしておく必要があることは把握しておきましょう。

中小企業M&Aにおいて税理士が支援できる範囲は以下の通りです。

  • 税務申告書などの作成
  • 中小企業M&Aに付随する経営者保証解除などの支援
  • 中小企業M&Aで発生する課税などに関する助言
  • 中小企業等経営強化法における登録免許税や不動産取得税の特例、許認可承継の特例
  • 企業価値評価・事業価値評価
  • 財務デュー・ディリジェンス
  • マッチングサイトなどの活用
  • 債務超過企業に対する中小企業M&A支援

公認会計士

中小企業M&Aにおいて、公認会計士は会計の専門家として独立した立場から財務書類などの財務に関する情報を整理し、売り手企業の信頼性を向上させることで、M&A成立をサポートします。

中小企業M&Aで公認会計士に頼める支援内容は他にも、以下のようなものです。

  • 財務書類の作成
  • プレM&A支援
  • 企業価値評価・事業価値評価
  • 財務デュー・ディリジェンス
  • 債務超過企業に対する中小M&A支援
  • PMIの円滑な進行サポートなどの中小企業M&A実行後の支援

M&Aプラットフォーム

M&Aプラットフォームとは、すでにご紹介した通り、インターネット上のシステムを使いオンラインでM&A行いたい売り手企業と買い手企業のマッチングを支援するサービスです。

サービスごとに利用可能な対象者や利用方法は異なりますが、売り手側買い手側にかかわらずエムアンドエーを検討している企業がプラットフォームに登録し、マッチング相手を探す利用方法が一般的となっています。

M&Aプラットフォームの利点は、非常に簡便かつ低コストで利用できる点にあり、M&Aに対し多額の資金を投入することができないケースもある中小企業M&Aにおいて、手数料を金銭的なメリットのある選択肢です

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M&A仲介会社

M&A仲介会社は、M&Aの仲介業務やFA(ファイナンシャルアドバイザー)業務に従事する専門家であり、中小企業M&Aにおいても貴重な存在です。

M&A仲介業者にはマッチングから交渉に至るまで幅広い支援を依頼することができますか、士業などと違い資格が必要のない職業ではあります。

そのため、交渉や調整に関する知見は業者によって大幅に異なる事が多々あり、ノウハウの少ないM&A仲介会社に支援を依頼した場合には、交渉がスムーズに進まない場合もあることは念頭に置きましょう。

 

[7] 中小 M&A ガイドライン -第三者への円滑な事業引継ぎに向けて- 

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