【M&A事例】廃業検討から一転、事業シナジーを生む金属プレス加工メーカー同士の出会い

  • 譲渡
    アポロ工業株式会社
    
    事業概要:金属プレス加工メーカー
    本社所在地:埼玉県
    譲渡理由:後継者不在のため
    株式譲渡
    譲り受け
    有限会社新栄工業
    
    事業概要:金属プレス加工メーカー
    本社所在地:千葉県
    譲り受け理由:事業拡大のため

千葉県で金属プレス加工メーカーの新栄工業の代表の中村新一氏は、より事業を成長させるためにM&Aを検討し、ビズリーチ・サクシードに登録。そこで出会ったのが同業のアポロ工業。アポロ工業の代表は70代になり、引退を考えていました。

出会いから一緒になった今、そして、製造業の未来について、中村氏と、アポロ工業で管理部長を務める取締役の佐藤氏に語っていただきました(佐藤氏は、25年前に入社し、先代の社長から「すべてを任せた」と託され、統合した現在も管理部門を統括されています)。

アポロ工業を救った「雇用と技術を守りたい」という従業員の熱い想い

――アポロ工業様がM&Aを検討した背景について教えてください。

佐藤(アポロ工業) 70代になった先代の社長が5年前くらいから「年齢的にもきつくなってきた」と今後について悩んでいたのです。社内に親族はいるのですが、当時まだ任せるのは難しいということで、後継者が不在だったのです。

実は社長は廃業も考えたのですが、従業員から「雇用を守ってほしい」「技術を守りたい」という声が挙がり、M&Aを検討することになりました。そこで、社長と私がメインバンクである常陽銀行に相談し、常陽銀行経由でビズリーチ・サクシードに登録したところ、新栄工業からの話がありました。

 

――中村さんはどのような経緯でM&Aを検討されていたのでしょうか?

中村(新栄工業) 新栄工業は金属プレスの会社なのですが、技術力の育成が課題でした。以前は外部の金型メーカーから金型を買っていたのですが、その企業も高齢化が進み、内製化しようとしたのですが、そう簡単にはいきませんでした。

金型技術は難しい技術なのですが、非常に属人的で、その技は職人さんの頭のなかにあって、これまでなかなか可視化できていないことが課題でした。教わる側も辛抱が必要で、10年でものになるかどうかというものです。そうであれば、金型を作っている企業を探そうと思ったのです。

そこで、3年前から引継ぎ支援センターと銀行で探しはじめたのですが、なかなか出会えませんでした。そのようななか、自分でネットで検索してビズリーチ・サクシードをみつけて登録し、「金型」などのキーワードで検索したところ、アポロ工業をみつけたのです。その瞬間、「この会社だ!」と思いました。

 

製造業のことをしっかりわかっている人に託したい

――どのように面会し、お互い気持ちを決めていったのですか?

佐藤 メッセージのやりとりを2、3回くらいしてから初めて面会しました。3人(中村社長、アポロ工業の先代社長と私)で会ったのですが、お互い最初は緊張しました。合計3回会って、そのうち1回はお酒を飲みながら食事もしました。

でも実は、食事をする前から、先代の社長と話し、新栄工業に決めていました。というのも、他にも何社か投資会社の候補がいたのですが、製造業のことをちゃんとわかってくれている人に引き継いでもらいたいという想いがあったので、やっている事業が一番近く、想いのある新栄工業がいいと思ったのです。私たちの技術力を残したいと考えていました。

中村 その後の交渉はスムーズだったのですが、どちらかというと、当時お会いした後に、新栄工業の業績が少し落ちてしまって、「がんばるから待っていてください」というくらいでした(笑)。2019年4月に話し合いを始めて、その夏に基本合意して、2、3か月待ってもらい、2020年1月に一緒になれました。

――アポロ工業様の名前をなぜ残そうと思ったのですか?

中村 企業名はそれぞれ残ったほうがいいと私は思います。「譲渡企業の名前がなくなり、譲り受け企業の「第二工場」になると、長く続かない」と聞いたことがあります。名前がなくなってしまうと、従業員の肯定感が薄れてしまうし、社名が変わると信頼がなくなりメーカーの購買の方たちが取り引きしなくなることが多いそうです。

 

お互いのよさを分かち合うことで、ひとつのグループへ

――その後、アポロ工業様の運営はどうされているのですか?

中村 アポロ工業の職人の高齢化が進んでいるので、新たに若い人に入ってもらっています。また、アポロ工業の技術者から新栄工業の若手にも技術を教えてもらっています。お互いに行き来したり、アポロ工業から新栄工業に発注して、アポロ工業の技術部長のもとで新栄工業がつくったりもしています。

佐藤 一緒になって最初の3か月でアポロ工業の組織図を実情にあわせるように見直し、就業規則を明確化するなどしました。先代の社長は生粋の職人だったので。2020年4月に導入しようとしたので3か月間しかなく大変でしたが。

中村 それから、最初に全員と面談しました。とにかく何をやるのでも、まずは協力者をつくることが大切ですので。

 

――アポロ工業様にとっては急激な変化だったと思うのですが、戸惑いはありませんでしたか?

佐藤 もちろん最初は戸惑いはありましたが、日を追うごとにそういうものだという納得感に変わっていきました。今までやらないといけないけれどできていなかったことだったので。

組織図が変わったあたりから社内で変化がでてきました。これまで役職がついていなかった人に役職がついて責任感が出てきました。ほかにも、体制が変わって、これまでは実施していなかった会議をすることになって、日程を事前に決めて、会議の前に話すことをまとめるようになったりと、意識が変わりつつあります。

 

――統合後、収益的にはどうですか?

中村 非常によくなっています。もともとアポロ工業は、プレス金型に裏打ちされた高付加価値企業で、いい仕事をしているので。空気清浄機の部品など、コロナによる需要もあります。コロナで海外に発注できないなか、空気清浄機は日本に型屋さんがいるから製造できるのです。空気清浄機の部品はチタンでできていて、チタンはプレス加工が難しいため依頼しても好まれないところも多いので、技術力のあるアポロ工業に注文がくるのです。

 

一人一人の自律性を重んじる文化づくりを目指す

――今後どうしていきたいですか?

中村 まったく違う企業文化が一緒になるというのは大変なことですね。転職するってこんな感じなのかなと思いました。いろいろやりたいことはありますが、まずは、新栄工業の人事制度、教育制度、賃金体系などを3年かけてアポロ工業に移植していきたいです。

新栄工業の人事制度は、私が2014年に代表になってからつくりました。昔は職人社長が属人的に「俺についてこい」というやり方でよかったかもしれませんが、今は昔とは労務環境が異なりますので。

これからは従業員が自律的になって、賃金もどうすると上がるかを自分で考えて、従業員自身が主役になれるようにしないと日本の未来は危ぶまれると私は思います。それは昔を否定しているのではなく、時代にあわせて変えていかないといけないということです。

この数か月は組織図や就業規則を適正にすることから始めましたが、これからは独自文化をつくっていくフェーズです。ここからはじっくりやっていきたいです。アポロ工業のいいところを残しながら積み上げていきます。

 

――文化をつくっていくのは大変なことですね?どうやって変えていきますか?

中村 私は新栄工業の2代目です。2014年に私が社長になり、理念を変えました。初代社長がつくった理念が今の時代にしっくりきていないと思ったためです。まずは、理念を刷新することでベクトルをあわせました。その後、従業員共通の目標と評価基準をつくってきました。何をしたら評価されたいかについて従業員と会話をしながら、約3年かけて少しずつつくってきました。時間はかかりますが、じっくり進めることが大切ですので。

このように新たな体制づくりに取り組むことになったきっかけは、当社には外国籍の従業員がいて、彼らから「目標と評価を明確化してほしい」という希望があったためです。それで、今後外国籍が増えることを予想し、変えてみたところ、日本人も若い従業員は目標と評価を明確化したほうがいいと思っていることがわかったのです。今度はこれをアポロ工業にも時間をかけて導入していきたいです。

ほかにも、新栄工業では教育訓練の体制が整っており、入社研修制度もあるので、社員が入社した際にアポロ工業でもその研修を受けてもらっています。それから、新栄工業には技術を教えるベテランがいて、入社後1か月間、そのベテランの下で、基礎技術の訓練をしてから現場に配属するようにしています。そのレジェンドも役に立ててうれしいと言ってくれています。

 

グループとして企業同士が切磋琢磨していきたい

――今後も積極的にM&Aをしていくのですか?

中村 中小企業のM&Aは事業シナジーが大切です。連携がとれる相手であれば、積極的に検討していきたいです。私の持論ですが、戦後早期に復興するために、効率を重視して会社ごとに分業したことで、日本は早期に経済復興できたのだと思います。でも、その結果、職人社長が増え、一つのことに特化した会社が増えたのだと思います。

でも、それでは今後の日本の製造業は立ちゆかないということになり、2000年くらいから中小企業のマッチングサイトが増えてきたのですが、外注すると高くてコストメリットが出ないため、連携だけでは解決できないのが今なのだと思います。

これからはグループとして強い企業体をつくり、切磋琢磨していくことができれば、グループとして生き残っていける。連携だけではく、M&Aが重要になってくるのではないでしょうか。

 

――M&Aを検討中、もしくは悩んでいる譲渡企業と譲り受け企業にメッセージをお願いします。

佐藤 実際にやってみてよかったので、M&Aを検討している企業さんは「ビズリーチ・サクシード」に登録して検討だけでもしてみたほうがいいと思います。譲渡企業は無料で利用できるので。

中村 譲り受け企業の方については、初めてのM&Aの場合は、M&Aコンサルタントの方にアドバイスしてもらいながらやってみると、感どころや決算書の見方がわかってきて、2社目のM&Aも検討してみたくなるのではと思います。ただし、決算書はPLだけでなくBSも含め、ある程度見られるようになっておいたほうがいいと思います。私の場合は、知り合いが財務諸表の読み方の勉強会をやっていて、そこで勉強しました。

デューディリジェンスはちゃんと入れるとそれだけで数百万円もかかってしまいますよね。

当社の場合は、それだけの費用をかけても、もしうまくいかなかったときのことを想定すると、その金額は難しいと考えました。そこで、日頃からお付き合いのある顧問税理士や社労士にお願いし、それとは別にM&Aコンサルタントと契約しアドバイスをいただくことで、デューディリジェンスの費用を抑えました。そのような工夫もできるとよいと思います。

やってみてよかったことしかないので、検討している、もしくは、迷っている方は、一度このようなM&Aプラットフォームを利用することを検討してみるとよいと思います。