会社の身売りとは?メリットや従業員への影響を徹底解説

会社の身売りとは、会社を第三者に売却することです。事業承継を行えるなどのメリットが注目され、身売り(M&A)に対する印象は良くなってきました。会社の身売りを成功させるポイントなどを徹底解説します。(公認会計士 前田 樹 監修)

身売り 会社(FV)

目次
  1. 会社の身売りとは
  2. 会社の身売りを行うメリット7選
  3. 会社の身売りを行うデメリット3選
  4. 会社の身売りによる従業員・経営者への影響
  5. 会社の身売りを成功させるポイント
  6. まとめ

会社の身売りとは

まずは会社の身売りとはどういうことか、また、M&Aとの違いについて解説していきます。

「会社の身売り」の意味

「会社の身売り」とは会社の事業や営業権などを含む会社を親族や会社の従業員などに事業承継できず、第三者に売却することを言います。
現在、経営者の高齢化が進んできていることや後継者が見つからないケースが増加しています。

また、ここ最近、M&Aマッチングプラットフォームなどが手軽に利用できるようになり、会社を売却しやすい環境が整ってきました
その結果、会社を親族などに事業承継するのではなく、
第三者に売却、身売りすることも増えてきています

昔であれば、親族内などで事業承継が一般的で会社を身売りすることが少なかったため、イメージがよくなかったのですが、状況が変わってきており、イメージも変わってきているのです。

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M&Aと身売りの意味はほぼ同じ

M&Aとは

では、ここ最近ニュースなどで取り上げられるM&Aとの違いはあるのでしょうか。
結論から言えば、
会社の身売りもM&Aも意味合いは同じで、第三者に会社を売却することになります
M&Aには株式移転など経営統合をするケースや事業譲渡などの一部売却なども含まれるため、少し広い意味も含まれますが、それ以外はほぼ同じです。

また、どちらもM&Aが盛んに行われていなかった時にはそれぞれあまりいいイメージではありませんでした
しかし、ここ最近M&Aが盛んになってきており、会社を売却することも選択肢と変わってきています。
その結果、どちらもイメージが変わってきています。

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会社の身売りを行うメリット7選

会社を身売りすることのメリットについて解説していきます。
ここでは7個のメリットについて解説します。

株式や事業の売却収入を得られる

会社を売却することで得られるメリットとして売却収入を得ることができます
そして、会社の事業が成長しており、事業がうまくいっていれば、多額の収入を得ることができます。
得た収入により、
新たな事業展開や老後の資金などに活用することができます。

このメリットにより従業員などから会社の身売りがいいイメージを持たれない要因の一つとなっています。
社長だけが収入を得ることができ、従業員には還元されず、さらに従業員の将来が保証される訳ではないため、
社長が抜け駆けしたように見えるためです。

事業承継を行える

先述した通り、経営者の高齢化や後継者が見つからないことにより、事業承継がなかなかできないこともあります。
しかし、
会社の身売りをすることでこの問題を解決することができるのです。

また、事業承継をすることで従業員の雇用を維持できることや取引先との取引が継続することができ、後継者が見つからない経営者の悩みだけを解決するのではなく、従業員や取引先を守ることもできます
会社を身売りすることで、会社の事業承継ができ、さらには従業員の雇用の継続や取引先の取引継続をすることができるのです。

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個人保証や債務から解放される

会社を経営していると会社の借入金などに対して個人保証が設定されることがあります。
金融機関は会社にお金を貸す時には会社だけの返済能力に不安があり、経営者の責任を明確にすることで返済をちゃんとしてもらうことを考えます。
そんな時に設定されるのが、個人保証となります。

個人保証は経営者から離れるまで設定されることになり、経営者として居続ける限り、解放されることはありません。
会社を身売りすると
経営者は経営者の立場から離れることになり、個人保証や債務から解放されることになります。

廃業費用をかけずにリタイア(退職)できる

会社を廃業しようとすると、清算するためのコストと資産を売却する際のコストなどがかかってしまいます
また、資産を売却しようとしても売却できる場合と売却できない場合があります。
特殊な機械などである場合には利用する人が見つからず、売却できないということもあります。

会社を身売りする場合であれば、清算コストや売却可能性などを考える必要がありません。
廃業コストは削減でき、資産の売却の手間を省くことができるのです。

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更なる事業の成長を実現できる

会社を身売りすることで会社の更なる成長を実現できる可能性があります
経営者が変わらなければ、今まで通りの経営方針ややり方により進めるため、会社が成長するスピードなどは今の状態から大きく変わりません。
また、経営資源に関しても現在の状況は大きく変わりません。

しかし、会社を身売りすることで会社のやり方などは大きく変わり、また、経営資源に関してもこれまで投入できなかったものが投入できる可能性があります。
売却先から人員を派遣してもらい、経営ノウハウなどを活用することで事業の成長の助けになってくれることもあります。

また、大手グループの傘下に入ることになれば、財務の安全性など安定した経営環境に置かれることになり、事業も安定し成長へのカーブも描きやすくなります

経営者としての名声を得られる

以前であれば、会社の身売りということはイメージが良くないことでした。
しかし、ここ最近ではM&Aが一般的となり、会社売却ということが悪いことではないというイメージになってきました。
むしろ、ベンチャー企業は
企業価値を上げた上で会社を売却することで経営者が称賛を浴びるようになってきました

会社を身売りすることができるということは企業価値を上げることができたという評価となり、経営者としての実績として見られるようになっているのです。

やりたいことに注力できる

会社を経営している間、なかなか経営者は自分のやりたいことができないケースもあります。

もちろん会社は自分がやりたいことをやり始めたものであるため、やりたくないというわけではありませんが、規模が大きくなってくると自分だけの会社ではなく、従業員や取引先なども関係してきます。
そうなると
やりたいことだけではなく、やりたくないことにも時間を割かなければならなくなり、やりたいことができなくなってしまいます

会社の経営をずっとやっているとまたやりたいことが出てくるのです。
会社を身売りすることで
経営者からの立場から解放され、再びやりたいことに注力することができるのです。

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会社の身売りを行うデメリット3選

一方で、会社を身売りすることで得られるのはメリットばかりではありません。
次にデメリットについて解説していきます。

身売り後に、一定期間にわたって拘束される可能性がある

会社を身売りすると一定期間にわたって拘束される場合があります
それはロックアップあるいはキーマン条項とも呼ばれ、
売却後も一定期間会社で働かなければならないという条項が契約書締結の際に入れられている場合が該当します。

これらは売却されることで事業がうまくいかなくならないようにするために設定されますが、引退したい場合や別の事業をしたい場合などにはネックとなってしまうので注意が必要です。

競業避止義務が発生するリスクがある

会社を身売りする場合には、契約書を締結することになります。
契約書の中で
競業避止義務が入れられることがよくあります

競業避止義務とは売却した会社と競合するような事業を行なってはならないということで、売却後に買った会社が影響を受けないように入れられます。
引退したい場合などには関係がないのですが、新たに事業をしたい場合などは影響を受けます。

なお、事業譲渡の場合は会社法で同一あるいは隣接する市町村の区域内で譲渡事業と同一の事業を20年間行なってはならないとされているので注意が必要です。

従業員や取引先に迷惑をかける可能性がある

会社を身売りすると従業員や取引先に迷惑をかけてしまう場合があります

会社を売却しても基本的には従業員の雇用条件は変更されない場合が多いのです。
しかし、売却して数年経って経営状況が悪いなどの理由から給与水準などが変更される場合があります。

また、取引先についても基本的に同一条件で引き継がれることが多いですが、従業員と同様で、取引を行なっていくうちに条件が変更されてしまう場合があります。

会社を身売りすると経営する人が変わるため、その経営方針によって従業員や取引先は影響を受けてしまう可能性があるのです

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会社の身売りによる従業員・経営者への影響

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会社の身売りにより、従業員や経営者への影響を解説していきます。

従業員の雇用は基本的に継続される

従業員の雇用ですが、会社の身売りの手法によって異なりますが基本的には継続されます。
それぞれの手法について受ける影響についてみていきましょう。

株式譲渡

株式譲渡の場合ですが、会社が引き継がれるため、従業員の雇用は維持され、雇用条件等も変更ありません
そのため、会社を身売りされたとしても基本的に雇用が守られることになります。
また、大手グループの傘下に入ることができれば従業員の雇用が安定するだけではなく、給与条件などが改善されるケースもあります。

一方で、先述した通り、会社を身売りしてすぐは守られるのですが、数年経過した後まで保証されているかは別問題で状況が変われば、条件は変更される可能性があります。
その点は留意が必要です。

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事業譲渡

一方、事業譲渡の場合、引き継ぐ契約などは一つ一つ決められ承認が必要となるため、従業員の雇用契約に関しても巻き直しが必要となります
雇用契約は従業員の同意を経て、譲渡先に引き継ぐことになります。
雇用契約は再度巻き直されることが、事業譲渡の特徴となります。

事業譲渡を用いて会社を身売りする際は、雇用条件を新たに巻き直す必要があるとは言え、譲渡先との交渉により同条件で引き継がれることになるため、気にする必要がないケースがほとんどです。
万が一変更される場合には条件等をちゃんと確認して、同意できる内容であれば契約し、同意できないのであれば条件交渉を行い、最悪のケースは退職も選択肢となってしまいます。

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経営者の処遇は、買い手との交渉次第

経営者の処遇に関しては買い手との交渉次第になります。

業績が悪ければ、退任が求められることもありますし、先述した通り、売却後も事業運営に影響を出さないためにそのまま経営者として残るケースもあります。
これらは全て契約交渉の中で決まっていくことになるため、自分の希望が通るように条件交渉しましょう

また、従業員と同様でスキームによって引き継がれるかどうかは異なりますが、従業員と違い、経営者の処遇は交渉によって決まるところが大きく、スキームによらず、買い手との交渉次第です。

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会社の身売りを成功させるポイント

ここからは会社の身売りを成功させるポイントを解説していきます。

身売り 会社 成功ポイント

条件に優先順位をつけておく

まず、会社を身売りする際に優先すべき条件を洗い出して順位づけしておくことで交渉もやりやすくなり、成功させやすくなります
条件には、従業員の雇用や経営者の処遇、取引先の維持、販売製品の継承、取引金額などさまざまです。

会社を売却する際に相手さえ見つかれば細かい条件などは気にせず売却してしまうケースもありますが、そうすると売却した後に自分の思っていた通りの結果にならないことがあります。
そのため、会社の身売りをする際は
売却戦略を立て優先順位をつけ進めることで、成功に導くことができます

自社の強みを伸ばし、明確化する

事業を進める際でも同じですが、自社の強みを伸ばして明確化しておく必要があります

事業を進める上でも自社の強みを伸ばすケースと弱みをなくすことを考えるケースがありますが、会社の身売りの場合には自社の強みを伸ばす方が先方にアピールすることができ、先方との交渉も進めやすくなります。

会社の身売りをしない場合でも自社の強みを伸ばすことは重要なので、事前に自社の強みを把握し、準備をして伸ばしていきましょう

買い手候補の選定を慎重に行う

会社を身売りする際に買い手さえ見つかればいいと思いがちですが、そんなことはありません。

従業員はそのまま買い手に引き継がれることになりますし、取引先も引き継がれます。
また、自社で育て上げた技術や販路なども引き継がれることになるため、
これまでの経営方針ややり方が大きく変わらない方がいいでしょう

先述した通り、売却戦略を立てそれに沿った相手先を慎重に選ぶことで会社の将来を明るくでき従業員や取引先などを守ることができる可能性も高まります
売った後に思った通りの買い手でなかったら遅いので事前に戦略に沿って慎重に相手先を選定しましょう。

従業員への説明を徹底的に行い、理解を得る

会社を身売りすると従業員から反発されてしまう可能性があります

身売りされると経営者が変わり、経営方針などが変わってしまいやり方も変わってしまいます。
これまでは思い通りにできていたものができなくなったり、追加でやる必要なことが出てきたりすることもあります。
また、雇用条件が変更されるのではないかなど将来に対しての不安も出てきます。

そうした従業員の悩みや不安を解消するためには従業員へ徹底的に説明を行い、理解を得る必要があります
理解が得られない場合には、従業員が退職してしまい、事業に影響が出てしまうケースもあります。
そうなると会社の身売りどころではなくなり、事業すらままならず、経営に支障が出てしまいます。

こうした状況が起きないようにするためにも、従業員には説明をしっかりして理解を得ておきましょう。

従業員への影響も考慮して契約書を締結する

従業員は会社を身売りしたとしても雇用は継続され、会社に残ることになります。
そのため、
従業員の雇用や条件などの維持は契約交渉の中で担保できるように交渉する必要があります
雇用や条件を維持できなければ、従業員は会社を退職してしまう可能性もあります。

また、これまで頑張ってきてくれた従業員を守ることができなければ経営者としての恩返しもすることもできません
そうしたことを考慮しても、契約書の中でちゃんと従業員を守れるように交渉し、締結しましょう。

専門性があり、信頼できるM&Aアドバイザーに相談する

会社を身売りするには、M&Aの専門知識や豊富な経験が必要になります
自社でM&Aの経験が豊富にあれば問題ないのですが、大抵の場合、M&Aの経験はありません。
ましてや会社の身売りとなると経験している人はいないのが普通です。

一方で、買い手側はM&Aに慣れているケースも多く、そうした買い手に会社の身売りをした場合には売り手側が不利になってしまいます

そのため、M&Aの専門性を持ち、経験豊富で信頼できるM&Aアドバイザーを探し、相談した方が失敗なく、会社の身売りをすることができます
時によっては売り手のアドバイザーとして契約を行い、適宜アドバイスをしてもらうことで会社の身売りを成功に導いていきましょう。

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まとめ

ここまで会社の身売りについて見てきましたがいかがでしたでしょうか。

会社の身売りをすることは人生の中で経験する人はほとんどいないと思います。
そのため、手続きなどをはじめなかなか難しいことも多くあると思います。
また、会社の身売りをすることで得られるメリットも多く、今後の人生を設計するにも役立つことはたくさんあります。

これまでは親族内や従業員など内部での事業承継が多くを占めていましたが、ここ最近ではM&Aが積極的に行われるようになり、第三者へ売却することも選択肢になってきていることから、会社の身売りも選択肢として選ぶことができます。

専門知識や経験などが必要で大変なことも多いですが、その点は専門家などを活用してリスクを低減することで失敗を減らすことができます。
会社の身売りすることで得られるメリットもたくさんあり、会社の将来も明るくすることができます。

リスクは低減して、得られるメリットを最大限にできるように会社の身売りを進めることで成功に導いていきましょう。

(執筆者:公認会計士 前田 樹 大手監査法人、監査法人系のFAS、事業会社で会計監査からM&Aまで幅広く経験。FASではデューデリジェンス、バリュエーションを中心にM&A業務に従事、事業会社では案件のコーディネートからPMIを経験。)